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人間が空を飛べるようになるには、あと100万年はかかるだろう

1903年12月8日、スミソニアン研究所のサミュエル・ラングレーは二度目の有人飛行に失敗し、冬のポトマック川に飛び込むはめになった。当時、ニューヨーク・タイムズは個人の夢のために5万ドルの公金を無駄遣いしたことを酷評し、人間が空を飛べるようになるにはあと100万年はかかるだろうという社説を掲載した。オハイオのしがない自転車屋兄弟がノースカロライナのキティホークで空を飛んだのは、その9日後のことだ。

兄ウイルバー・ライトが生まれたのは1867年、弟オービル・ライトが生まれたのはその4年後、ウィルバーは55歳で亡くなったが、オービルは72歳まで生きた。

1901年、「グライダー2」の実験に失敗した兄のウィルバーは「僕らの生きているうちにヒトが空を飛ぶことはできないだろう」と感想をもらしたという。その言葉を聞いていた弟のオービルは、46年後、死の一年前にチャック・イェーガーの超音速飛行のニュースを聞くことになった。

1920年、米国の発明家ロバート・ゴダードは、ロケットは真空の宇宙空間でも推進できるという論文を発表した。当時、ニューヨーク・タイムズは真空中では原理的にロケットは飛行できないことくらい誰でも知っているのに、ゴダードは高校で習う知識すら持っていないようだと評した。

1926年、ゴダード自身が製作した世界初の液体燃料ロケットの到達高度は12mだった。初めてロケットが高度100kmを越えて宇宙空間に到達したのは1942年、ゴダードが亡くなる3年前。

1969年7月17日、アポロ11号の打ち上げの翌日、歴史的な月着陸の3日前に、ニューヨーク・タイムズは真空中でもロケットが飛行できることは明確に実証されたとして、ゴダードの論文を酷評したことに対する謝罪記事を掲載した。


last update Jan.31 2001 (『空飛ぶ20世紀』改題)

by isana kashiwai
isana.k [at] gmail.com