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2001.11.30
BookReview2001.11.30

なんだか、頭の回りをちょうちょが飛びまわるぐらいに忙しい。

でも、それとこれとは話が別。最近読んだ本からちょっと紹介

サミュエル・ハンチントン『文明の衝突と21世紀の日本』集英社新書0015(bk1)
イスラム本から始まって、ギデンス、ウォーラースタインと読み進み、とりあえず、ここに行きついた。普段はこういう「はやりの平積み本」をつい敬遠してしまったりするんだけど、これはなかなかの良書。「冷戦以降の争いは国家間ではなく、文明間で起きる」という当たり前のことをちゃんと書いた本。この文章を読んでそんなの当たり前じゃないか、と思った人は一読をお進めします。この本には当たり前の事をちゃんと当たり前だというための根拠がかいてある。実はこれは凄いこと。彼は決して予言者ではない。でも、耳を傾けるべき預言者ではある。

それがどんな狭い世界であっても、物事を見るためには軸が必要だ。たとえその軸がぶれていてもかまわないし、どんなに貧弱なものでもかまわない。あるいは、話の糸口と言い換えてもいいかもしれない。スクラッチ&ビルドするためにはまず壊すための「何か」が必要になる。少なくともこの本は、今の世界を見るための軸を与えてくれることは間違いない。正しいかどうかは分からないけどね。

上の新書は前著『文明の衝突』(bk1)のダイジェスト+αという感じ。エッセンスだけならこっちで十分。ちゃんと読みたければハードカバーもどうぞ。おすすめです。

それにしても「これを文明の衝突にしてはならない」という週刊誌の見出しには笑ってしまった。ちゃんと読みましたか?

神林長平『永久帰還装置』朝日ソノラマ(bk1)
おお、この人が人間と人間の恋愛小説を書くのは本当に久しぶり(ま、設定上は人間じゃないけど)。もともと、恋愛小説の構造で本書くことが多い人だけど、人間と戦闘機とか、人間と宇宙船とか、人間と戦車とか、人間と車とか、人間と世界とかそんなのばっかりだからねえ。

でも、誰に聞いても最高傑作は『あなたの魂に安らぎあれ』(bk1)だっていうんだよね。僕もそう思うけど。でも、個人的に好きなのは『完璧な涙』(bk1)そういえばこれも恋愛小説だったっけ。人+人+戦車の時空を超えた三角関係の話、美しいっす。

ハーマン・メルヴィル『白鯨』講談社文芸文庫(/)
新訳が出ていたので久しぶりに読み直してみる。いやーやっぱり面白いわ。でも、まだ訳が硬い気がするなあ、他と比べるとずいぶん読みやすいけどね。せっかくでたらめで破天荒なお話なんだから、もっと軽く訳せばいいのに。たしかに哲学的なところもないわけじゃないけど、その前にかなり楽しい(?)話なんだしねえ。
ちょっとやってみようか。

とりあえず、俺のことはイシュメールと呼んでくれ。あれは何年か前、…実際何年前だったかなんてどうでもいいだろ?そう何年か前だ。懐に金がほとんど無くて、かといって波打ち際でやりたいことがあるわけじゃなかったから、ちょっと海に出て「水浸しの世界のもう半分」ってやつを見に行こうかって気になった。まあ、これはイライラを追っ払って血のめぐりを元に戻すのに、俺がよくやる手だったりする。たとえば、口のあたりがもそもそして、気分が11月のジメジメした小雨日和みたいになっているときとか、つい棺桶置場の前で足を止めたり、出会う葬式の列に片っ端からついていきそうになるときとか、あるいは鬱のあまり、道行く人の帽子を順番に叩き落としたい衝動を抑えられなくなりそうなときとか。いますぐにでも海に出たいなんて思うのは、そういうときだ。ま、要するにピストルと弾丸の代わりだな。カトーは哲学的な言葉を朗々と唸りながら剣の上に身を投げたけれど、俺は黙って船に乗る。別に驚くほどのことじゃない。たいがいの奴は遠からず海に対して俺と同じような感情を抱いてるはずだ。ま、海を知ってればの話だけどね

こんな感じでどう?第1章の冒頭部分。けっこー楽しい 。
てきとー訳なので細かいところに目くじら立てないでね。ちなみに英文はGutenbergProjectから。

吉田武『オイラーの贈物 人類の至宝eiπ=−1を学ぶ』(bk1)ちくま文芸文庫
数学の教科書、名著。すばらしい、この本を文庫化した筑摩書房を尊敬。そう、こういう本を文庫化しなくちゃだめよ。いや、冗談じゃなく、難しくて気軽に読むわけにいかない本だからこそ、文庫になる意味がある。さあ、負けるな岩波、岩波現代文庫で『ファインマン物理学』(bk1)を出そうよ(ダメだろうなあ)。



by isana kashiwai