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Mar. 27 2003
悲劇の種

『劣化ウラン弾』という言葉はほとんどの人が聞いたことがあるかもしれません。でも、それがどんなものかを知っている人は、自分を含めて、あまりいないような気がします。いい機会ですから、ちょっと調べてみましょうか。


鉱山から採掘された天然ウランは、濃縮する過程で発電や核兵器に利用するウラン235と低レベル放射性廃棄物となるウラン238に分けられます。ただ、前者は全体の1パーセント程度で、残りはほとんど後者のウラン238が占めています。実は「劣化ウラン」というのは、このウラン238のこと。つまり、ウラン精製時の゚謔ナす。

「劣化ウラン」「低レベル放射性廃棄物」なんて名前がついていますが、れっきとした放射性物質です。きわめて毒性が高く、かなり強いα線を放ち、半減期は45億年にもなります。ただ、α線は非常に透過力が弱く、大気中では僅か数センチでエネルギーを失ってしまいます。適切に防護措置が取られていれば、被曝はほとんどありません。精製施設でも容器に入れられて施設の外に積んであったりします。まあ、僅かな比重の差を利用して分離しているため、どうしても若干のウラン235が残留し、100%安全とは言えないんですけどね。

劣化ウラン弾というのは、弾芯にこの劣化ウランを使用した砲弾/弾丸のことです。大砲や機関砲の弾は速度が同じなら、重いほうが運動エネルギーが大きく、貫通する力が強くなります(F=mv^2/2ですね)。そのため、戦車などの厚い装甲を貫通させるために、通常ではタングステンなどを使用して弾を堅く、重くするわけです。

劣化ウランはタングステンに次ぐ比重を持ち(鉄の2.7倍、鉛の1.7倍)、タングステンよりも加工が容易です。しかも、元がやり場に困っている廃棄物なのでエネルギー省から無料で支給されます。そのうえ、発火性を持っていて、貫通時の衝撃で高熱を発して燃焼し戦車内の兵士を焼き殺すことができるというおまけつき。消耗品の弾丸として使うにはまさにうってつけの物質です。米軍は60年代からこれに目をつけ、80年代から90年代に掛けて実用化しました。

ちなみに、劣化ウランが使用されているのは、砲弾や弾丸だけではありません。「バンカーバスター」と呼ばれる特殊な爆弾は、厚さ10mものコンクリートを貫通する能力を持ち、地下壕などの防御施設を破壊することを目的としています。米軍は公表していませんが、バンカーバスターに劣化ウランが使用されていることはまず間違いないといわれています。また、湾岸戦争の際には、約1/3の戦車の装甲に劣化ウランが使われていました。


さて、問題はここからです。

確かに、α線の透過力は微弱で、ウラン238の放射線による体外被曝は殆どありません。当初、劣化ウラン弾による被爆の危険性が殆どないとされた理由もここにあります。しかし、直接α線を放射する物質が組織に付着すると、直近の細胞は減衰前の非常に大きなα線を受けることになり、細胞内の遺伝子が激しい損傷を受けます。

さて、先ほども述べたように、劣化ウラン弾は着弾の衝撃で燃焼します。このとき、燃焼したウランが酸化ウランの細かい微粒子(エアロゾル)となって空気中に飛散します。この微粒子は当然ながらα線を放出していますから、微粒子が傷口に付着したり、直接吸引したり、あるいはこれが含まれた水や食料を口にすることで、深刻な体内被曝を引き起こすことになります。その症状は、一般的な放射線障害と全く同じです。

この劣化ウラン弾は湾岸戦争で始めて使用され、戦車の120ミリ砲や105ミリ砲から1万発、戦闘機や攻撃機などの30ミリ砲や25ミリ砲から94万発が発射されました。120ミリ砲の場合、劣化ウラン弾の弾体の重さは4700g、30ミリ砲だと約300gぐらい。着弾の衝撃による燃焼でこのうちの70%〜20%が酸化ウランの粒子として空気中に飛散します。

ちょっと計算してみましょうか。20%としても120ミリ砲で940g、30ミリ砲で60g、これにそれぞれ1万と94万を掛けると。はい、少なく見積もっても湾岸戦争全体で65.8t(65‚800‚000g)ぐらいの放射性物質がばら撒かれたことになります。多めに見積もると・・・うぉ、350t(350‚000‚000g)。

米原子力規制委員会(NRC)が定めるウラン238の一日の体内摂取限度量は、一般人で0.19mg(0.00019g)、原子力施設関連従業員で2mg(0.002g)です。70%換算で戦車砲弾一発が一般市民1732万人分。これはちょうど当時のイラクの全人口と同じぐらいです(ちなみに、今は2200万人。その半数は子どもです)。

湾岸戦争に先立って米軍が出したレポートでは、ウランの微粒子を吸引して被爆した場合、肺がん、骨ガン、腎臓障害、肺疾患、精神障害、染色体異常、出産障害が引き起こされる可能性が指摘されています。結論から言えば、このレポートは非常に正確に事実を言い当てていました。そう、湾岸戦争が起きる前に。

湾岸戦争後、25万人以上の退役軍人が白血病や肺がんなどを含む疾患のために、退役軍人省に治療を求め、18万人が保障を請求しました。これは従軍者の40%にも及ぶ人数です。さらにイラクでは、子どもを中心に白血病やリンパ性のガンなどが急増し、また、先天性異常を持つ新生児が2倍に増加しています。

93年に兵士の防護対策の不備を追求された米軍高官はこう語りました。「戦闘中やその他の生命を脅かされる状況下では、戦闘による危険の方が、劣化ウランによる健康へのリスクよりはるかに高い。だから劣化ウラン弾への防護対策は無視することができる」

この言葉は覚えておいたほうがいいかもしれません。軍隊という組織はこういうメンタリティで運用されています。一般兵士は駒でしかなく、市民は眼中にありません。戦闘終了後のことは、彼らは一切考えていません。

今も国防総省と米復員軍人援護局の上層部は、劣化ウランは戦闘員にとっても非戦闘員にとっても100%無害だと主張しています。退役兵の病気も、イラクの市民の病気も、劣化ウラン弾とは無関係だと。


さて、テレビをつけてみましょうか。
今、かの国では「市民を巻き添えにしない、クリーンな戦争」が行われています。

連日のように繰り返される、戦車や機関砲による攻撃シーン。あの砲弾の中には、間違いなく、劣化ウランが詰められています。まだ明らかにされていませんが、空爆ではバンカーバスターも使われているでしょう。あれは米軍の自慢の一品ですから、そのうち嬉々として発表されるはずです。

忘れないで下さい、撒き散らされた悲劇の種が芽を出すのは、もう少し先のことです。


(Mar. 27 2003 updated)

by isana kashiwai