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May. 07 2003
星のかけらを取りに行く

http://www.muses-c.isas.ac.jp/Japanese/index.html

さて皆様、お待ちかね。ロケットの時間です。
5月9日、宇宙科学研究所(ISAS)の工学実験探査機『MUSES-C』が鹿児島県内之浦の鹿児島宇宙空間観測所からM-Vロケット5号機で打ち上げられます。前回のH-IIAは諸般の事情でちょっとつまらなかったですが、その点今回は新しいこと尽くめのとてもチャレンジングなミッションです。

MUSES-Cは宇宙科学研究所の工学実験探査機です。つまり宇宙探査に必要な技術的な実験を行う衛星、という位置付けですね。主なミッションは小惑星のサンプルリターン。そう「星のかけらを取ってくる」のが目的です。


さて、打上げの前に、簡単におさらいをしておきましょう。まずはロケットから。

打ち上げに使われるM-Vロケットは、NASDAのH-IIと双璧をなす国産ロケットです。M-Vは固体燃料ロケットとしては、精度、打ち上げ能力共に世界最高水準のものです。歴史はH-IIよりも古く、ジャパニーズ・ロケッティアのお父さん、東京大学生産技術研究所の糸川教授のペンシルロケットの直系の子孫です。一世代前のラムダは日本発の人工衛星「おおすみ」を打ち上げたことでも有名です。

系図を書くとこんな感じです↓
ペンシル>ベビー>カッパ(C)>ラムダ(L)>ミュー(M)

この一連のロケットの最大の特徴は、全段固体燃料ロケットであることです。
液体燃料ロケットが、液体の酸化剤と燃料を別々のタンクに収め、ポンプを使ってこの両者を燃焼室に送り込んで燃焼させるのに対して、固体燃料ロケットは、酸化剤と燃料を均一に混ぜ合わせた固体の燃料を使います。聞いた話によると、砂消しゴムにそっくりとのことです。ホントかな(M-Vは紅い砂消しだそうですが)。要するに、この燃える砂消しゴムに火をつけるわけですね。

固体燃料ロケットは液体燃料ロケットに比べて構造が簡略化できるため信頼性が高く、またコストダウンを図ることが出来ます。逆に、細かい誘導制御が難しく、また液体燃料に比べて燃費(比推力)が悪いという欠点があります。ただ、科学衛星は軌道に投入されてからの衛星自身による正確な誘導が行われれば観測には支障がありません。そのため打上げロケットは精度よりもむしろ信頼性が優先されます。だから、固体燃料ロケットが使われているわけです。逆に実用衛星は静止軌道に投入されることが多く、打上げ時の細かい制御が必要不可欠です。だから日本の商用ロケットであるH-IIは液体燃料を使っているんです。

実は、M-Vの前回の打上げ(M-V 4号機)は失敗しています。第一段ロケットのノズルが破損し、姿勢が乱れてしまったために、速度が足りず、衛星を軌道に乗せることが出来ませんでした。今回は、その復帰第一号。そういう意味でも重要な打ち上げです。


さて、つぎは積荷の話をしましょうか。

「MUSES」は「Mu Space Engineering Spacecraft」の略です。ミューロケットで打ち上げられた、工学衛星という意味ですね。MUSES-Cはその名の通りISASが打ち上げた工学実験衛星の3機目です。MUSES-A『ひてん』は1990年に打ち上げられ、スィングバイなどの軌道制御や、孫衛星『はごろも』を月軌道に乗せるなどの実験を行いました。2機目のMUSES-C『はるか』は、工学的な実験としては、直径8メートルものアンテナの展開や、衛星と地上局との相互通信テストなどが行われ、その後、電波天文衛星として本格的な運用に入りました。地上の電波望遠鏡と連携しながら高精度の観測を行うスペースVLBIというシステムを世界で始めて実現した衛星です。

今回のMUSES-C(まだ、名前はありません)は、先ほどチラッと触れたように、小惑星のサンプルを地球に持ち帰ることを目的としています。地球に接近する軌道を持った小惑星(NEO:近地球型小天体)に接近・着陸し、サンプルを採取。そのサンプルを地球に持ち帰るというミッションです。このように、地球外の物質を持ち帰ることを「サンプルリターン」といいますが、1960年から70年にかけての米アポロ計画や旧ソ連ルナ計画以後は行われてきませんでした。近年、この手法が再び脚光を浴びており、彗星のダストを持ち帰るSTARDUST、太陽風のサンプルを持ち帰るGenesisなどが運用中です。小惑星に対してサンプルリターンを行うのは、世界初の試みです。

目標となるのは『1998SF36』という味気ない名前の(そのうちもう少しいい名前がつくはずです)小惑星です。小惑星には太陽系形成時の物質がほとんど変性せずに残っているといわれており、これのサンプルが得られれば太陽系の成り立ちについて、とても重要な情報が得られることになります。MUSES-Cはサンプルの採集以外にも、小惑星近傍に3ヶ月間とどまりながら、構造や組成を調べたり、小型のホッピングロボット『ミネルヴァ』を投下して表面上を移動しながらの探査も行う予定です。

大まかなスケジュールは次の通り。2003年5月9日打上げ、約1年後の2004年6月に地球でスィングバイを行い、1998SF36への進路を取ります。さらに1年後の2005年6月に1998SF36に到着、3ヶ月間探査を行った後、地球に帰還する軌道を取り、2007年6月に帰還カプセルが切り離され、オーストラリアのウーメラへ投下されます。打上げから帰還まで約4年半の行程です。

さて、もう一つ重要な積荷をMUSES-Cは搭載しています。小惑星に着陸する際のターゲットとなるマーカー内に封入されたアルミの薄板です。このアルミのフィルムには世界中から登録された約88万人の名前が印字されています。このターゲットマーカーは回収されませんから、半永久的に小惑星上にとどまることになるでしょう。ずいぶん前にJunkyardReviewでも紹介しましたね。私の名前もどこかに書いてあるはずです。ふふふ。ただ、一文字の高さは0.03mmしかありませんから、顕微鏡でしか確認できませんけどね。


イオンエンジンとか自律航法システムとか、独創的なサンプルの回収方法とか、超高速大気圏突入とか他にも面白いネタが満載されているんですが、長くなるのでまた今度(充分長いって)。


最後に、関連サイトを挙げておきましょう

MUSES-C公式ページ
http://www.muses-c.isas.ac.jp/Japanese/index.html

MUSES-C勝手に応援ページ
http://www.as-exploration.com/muses_sp/muses.html
小惑星探査フォーラムが主催している「勝手に応援するページ」。非常に詳しく専門的な情報と分かりやすく楽しいコンテンツが同居しています。サイエンスを楽しむってこういうことです。おすすめ。


M-V公式(ISAS)
http://www.isas.ac.jp/j/enterp/rockets/index.html
ロケット>衛星打上げ用ロケット>M-V

M-V5号機打上げ準備状況
http://www.isas.ac.jp/dtc/mv5/mv5.html

打上げライブ中継
http://www.isas.ac.jp/tv/live.html

あとは、いつもおなじみのここですね。
宇宙作家クラブ掲示板
http://www.sacj.org/openbbs/
を、もう始まってますね。


M-V4号機の失敗の経緯はFAQと2000年に行われた小野田教授の講演が詳しいです。
特に講演のほうは、M-Vの概要も詳しく説明されているので、おすすめです。

ISAS FAQ
http://www.isas.ac.jp/j/faq/cont.html
M-V型ロケット世界最大級固体燃料ロケットのしくみとASTRO-E打ち上げ失敗の原因
http://www.isas.ac.jp/j/about/public/regular/anni2000/onoda.html

(May. 07 2003 updated)

by isana kashiwai