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May. 21 2003
The Last Sunflower

http://www.nasda.go.jp/projects/sat/gms/index_j.html
明日、5/22で20年に及ぶ気象衛星ひまわりシリーズの歴史が終わります。

本来、2000年でその役目を終えるはずだった、現行のひまわり5号は、H-II8号機の失敗により後継であるMTSATが失われたために、設計限界を超えて3年以上に渡って延命されていました。具体的には南北方向への軌道制御を止める。機器への負荷を減らすために観測機器を一部使用しないなどの措置が取られ、ぎりぎりの運用が続けられていました。

そこで、今回、本当に観測に支障が出る前に、アメリカから既に役目を終えてバックアップ機として保持されていた「GOSE-9」をレンタルして代替することにしたわけです。GOSE-9は西太平洋を観測できる位置にありませんでしたが、3ヶ月かけて軌道を変更し、テストを終え、2003年5月22日に観測業務を引き継ぎます。とはいうものの、GOSE-9も既に運用を終了した中古衛星です。しかも軌道制御はアメリカに依存しており、搭載機器の状態などの情報も公開されていません。

H-II8号機で失われたMTSAT(Multi-functional Transport Satellite:運輸多目的衛星)は代替機が今年の初めに打ち上げられる予定でしたが、衛星の開発の遅れから2度に渡って打ち上げが延期され、今のところ最短でも来年2004年の1月に打ち上げ、運用開始は3月の予定です。それまで、気象観測業務は「GOSE-9」が担当する事になります。

ただ、ひまわり5号の役目が完全に終了するわけではなく、GOSEからのデータを一度受け取ったあと、ひまわりから直接データを受け取っている地域向けへの中継衛星として機能することになります。また、GOSE-9に支障が出た場合には、再度観測業務を行う可能性もあるとのことです。

ひまわり初号機は1977年、アメリカのケネディ宇宙センターからデルタロケットを使って打ち上げられました(81年の2号機)からは種子島宇宙センターからの打ち上げです)。以降、1995年打ち上げの5号機まで、3年から5年おきに引き継ぎながら20年以上に渡って、運用されてきました。後継のMTSATにはまだ愛称がありませんが(衛星の愛称は軌道に乗ってからつけられるのが慣習です)、純粋な気象衛星としてのひまわりシリーズは5号機が最後になります。


「さて、ひまわりからの画像です」
あまりに日常的になってしまったあの画像は、赤道上空35‚000mに浮かぶ直径2m、高さ3.5mほどの衛星から送られていたものです。ひまわりシリーズが、気象予報や災害対策、科学研究に果たした役割は計り知れません。ひまわりは20年間、毎日毎時画像を送りつづけてきました。それも今日が最後です。

おつかれさま。本当にありがとう。


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静止衛星の寿命について、ちょっと説明しておきましょう。

地球の自転と同期した静止衛星軌道も、完全に安定しているわけではありません。地球の重力には場所によって強弱がありますし、完全な球体ではないためわずかながらずれが生じます。さらに、月や太陽の重力によっても、軌道にぶれが生じます。このぶれのことを「摂動」といいます。

摂動が蓄積していくと、静止衛星の緯度(東西方向)がずれたり、赤道面から外れたり(南北方向)します。あまりに大きくずれると、観測や通信に支障が出てしまいます。そのため、これを修正するために人工衛星はかならずスラスター(姿勢制御用の小型のロケットエンジンなど)を搭載しています。これを適宜噴射する事で軌道を維持しているわけです。この燃料が無くなると静止衛星は軌道を維持できなくなり、与えられたミッションをこなす事ができません。静止衛星の寿命はほぼこの燃料の残存量で決まります。


上に「ひまわりは南北方向の軌道制御を止めていた」と書きましたが、軌道維持のためには東西方向より、南北方向のほうがはるかに燃料を消費します。少々長くなりますが、面白いので紹介しましょう。

今、仮に衛星を東(衛星の進行方向)に動かしたいとしましょう。直感的には、西方向、つまり加速する方向にスラスターを噴射すればいいような気がしますが、これではダメなんです。

人工衛星は地球の重力と衛星が地球を周回する事で得られる遠心力がつりあっている事で軌道を維持しています。地球から遠ざかれば遠ざかるほど重力は弱くなりますから、つりあうだけの遠心力を発生させるための周回速度(軌道速度)もゆっくりですみます。この速度が地球の自転と同期するのが静止衛星ですね。

さて、ここで、衛星を軌道上で進行方向に向かって加速させると、衛星の速度が上がり遠心力が強くなって、高度が上がってしまいます(正確には楕円軌道に乗ります)。高度が上がると、軌道速度は下がりますから、軌道は進行方向とは逆に遅れていく事になります。お分かりでしょうか、衛星軌道上では加速すると高度が上がって後ろに下がるんです。じゃあ、前に進みたければどうするか。そう、減速すればいいんです。減速すれば高度は下がりますから、軌道速度が上がります。ちょうどいいところまで行ったらもう一度加速して高度を上げてもとの軌道に戻ればいいんです。


よく、映画なんかで、軌道上で宇宙船が目標に近づくために派手にエンジンを吹かして加速していたりしますが、あれをやると別の軌道に乗ってしまうだけで、目標に向かってまっすぐ進む事はできません。スペースシャトルが宇宙ステーションにドッキングするときも、高度を上げたり下げたりしながら速度を調節して接近しているんです(すぐ近くまで接近すれば、加速による高度変化は無視できるので、直接噴射で制御できるはずです)。

フィクションでは見栄えが優先ですから、ああいう描写がされていますが、現実にあれをやるとあらぬ方向へ飛んでいってしまいます。何かの機会で宇宙船を操縦される方は十分注意してください。宇宙船を目視&マニュアル操縦で目標に接近させるのはものすごく大変です。

まあ、フィクションに突っ込むのはやめましょう、野暮ってものです。だいいちカッコ悪いですからね。「早く奴に追いつけ、減速だ!」ってなんの事だかわかりません。


閑話休題。静止衛星に戻りましょう。静止衛星上での東西方向への軌道制御は進行方向の移動になりますから、今説明したようにちょっと加速したり減速するだけで軌道速度が変わるため、燃料をさほど使用しません(そんなに慌てる必要はありませんからね)。ただ、赤道面からのズレ(進行方向と直角方向のずれ)は、ズレた分だけスラスターを噴射しなければなりませんから燃料を大量に使用するんです。「ひまわりが南北方向の軌道制御を止めていた」のはこういう理由です。

(May. 22 2003 updated)

本日(5/22)、午前9時の画像を最後に、ひまわりはGOSE-9にミッションを引き継ぎました。

気象庁 気象衛星ひまわりからの最後の画像
可視画像 / 水蒸気画像 / 赤外線画像1 / 赤外線画像2

参考:北大ひまわりサーバ
http://gmssrv.agr.hokudai.ac.jp/facoast/index.php

(May. 22 2003 updated)

衛星画像を、オリジナルに近いものに差し替えました。

(May. 22 2003 updated)

by isana kashiwai