Junkyard Review     index     top


May. 26 2003
こびりつかない、焦げ付かない

米の環境団体、テフロン加工を施した調理器具の危険性を指摘 (HotWired)
現在市場に出回っている多くのフッ素樹脂加工の調理器具は、加熱すると3〜5分後に温度が370℃に達することがあり、2つの発がん性物質を含む、15種類の有毒ガスや化学物質を発生させる可能性がある、というお話。
これらの製品を販売しているメーカーは、この事実を説明書などに記載しておらず、米国の環境団体EWG(Enviromental Working Group)は、この危険性を明示を義務づけるべきだとの要請を米国消費者製品安全委員会(CPSC)に対して行ったとのこと。

件のEWGのテフロン加工に対するレポート
http://www.ewg.org/reports/toxicteflon/
USToday記事
http://www.usatoday.com/news/health/2003-05-19-teflon-usat_x.htm

ま、まじですか?つい先日、「取っ手の取れる」T-FALのフライパン&鍋セットを購入してほくほくしていた私としては、ちょっと無視できないニュース。・・・えーと、家でフライパンの説明書を確認してみると、確かに「空焼きは絶対に避けてください」と書いてありました。ただ、その理由についての説明はありませんねえ。てっきり、テフロンがはげるからだと思ってましたが、どうなんでしょう?し、調べてみましょう。いつになくどきどきするなあ、別の意味で。


短気な人のために、先に結論を言っておきましょう。まじです。
テフロン(フッ素樹脂加工)のフライパンは、絶対に空焼きしてはいけません。これはテフロンが剥がれるからだけはでなく、体に毒だからです。ただ、さほど大げさに怯える必要はなさそうです。


さて、フッ素樹脂加工(テフロンはデュポン社の登録商標で、フッ素樹脂加工とほぼ同義です)は、その名が示すように、調理器具などの表面を「フッ素樹脂」という難燃性のプラスチックでコーティングする技術のことです。
「フッ素樹脂」はテトラフルオロエチレンと呼ばれる物質で、炭素原子2個と、フッ素原子4個からなり、一般的な樹脂と違って水素が含まれていないため酸素と結合せず腐食しません。また、フッ素と炭素の結合力は有機結合中最も強いため、化学的な安定性が高く、鍋やフライパンだけでなく機械部品や絶縁材などに広く使われています。

フッ素樹脂は以下のような特性を持っています。

・耐熱性が高い
 プラステック中最高の耐熱性を持ち、-100℃〜+260℃の間で変質せず長時間使用することができます。用途によってはさらに低温、高温でも使用でき、-196℃でも摩擦係数は常温と変わらず、融点は327℃、分解し始めるのは390℃です(つまり、390℃以下ならば融けても冷やせば変質せずに元の状態に戻るということです)。

・対化学薬品性が高い
どんな酸やアルカリ、有機薬品に対しても安定しており、変質することがありません。対候性・対オゾン性にも優れ、10年間の曝露試験でも変質しなかったそうです。加えて、吸湿・吸水性も0%です。

他にも以下のような特性があります。今回の話にはあまり関係ないので説明は省略します。

・表面の摩擦係数が低い
・絶縁抵抗が大きく誘電損失が少ない
・加工が容易


さて、本題に入りましょう。耐熱性のところでも述べたように、フッ素樹脂の耐熱性は-100℃〜+260℃の間です。ごく普通に料理をしている場合には、この温度を超えることはありません。ただ、アルミの上にフッ素樹脂加工を施した製品を空焼きすると、数分で300度を超える温度になることがあります。多くのフッ素樹脂加工フライパンに使われているアルミは、極めて熱伝導率が高く、あっという間に温度が上昇します。

この温度になると、フッ素樹脂は粒子状の物質を生成することが知られており、この物質を吸入すると「ポリマー煙熱」とよばれる、インフルエンザに似た発熱や息切れの症状を起こすことがあります。この症状は数時間の潜伏期を置いて現われ、24時間〜48時間で必ず収まり、後遺症は残りません。

さらに、400度近い温度になると、フッ素樹脂は、普通のプラスチックと同じように分解して、有毒ガスを発生します。これが、上記記事で問題にされていた、発がん性物質を含む有毒ガスというやつです。ただ、普通にフライパンを使っている限り、この温度に達することはほとんどないはずです。

EWGのレポート内で報告されている、テフロン加工のフライパンのそばで小鳥が死んだといういう幾つかの事例は、ちょっと因果関係が曖昧ですね。まあ、レポートにある温度だと、260℃以上で発生する粒子状物質が原因である可能性が高いと思います。人間でも体調に異常をきたすわけですから、体の小さい動物なら命に関わることもあるかもしれません(赤ちゃんなんかはちょっと心配ですね)。


ただ、闇雲に怖がるのもどうかと思います。空焼きさえしなければ、ポリマー煙熱の危険がある温度に達することはまずありません。さらに、フッ素樹脂が分解して有毒ガスが出るのは、空焼きで5分という火事になっても文句の言えない時間です。ちなみに、上の特徴のところでも述べたように、フッ素樹脂は対酸性、対アルカリ性がありますから、剥がれた破片を食べても毒性はありません。

ポリマー煙熱の多くの症例は、工場の従業員がフッ素樹脂が付着したタバコを吸ったことで引き起こされたものです。逆にいえば、かなりの濃度を直接吸引しない限り、症状は発生しないはずです。いうまでもなく、料理の時は、換気をするのをお忘れなく。ポリマー煙熱以前に、一酸化炭素中毒の危険がありますからね。


最後に、フッ素樹脂加工フライパンの使い方をまとめておきましょう。

まず、絶対に空焼きしないこと。上に書いたように、毒性のある物質が出る可能性があるだけではなく、フッ素樹脂が剥離してしまうため、フライパンの寿命を縮めてしまいます。使った後は、普通に洗って、布巾で拭くだけで充分です。洗剤を使わずに、と説明されていることもありますが、根拠はよくわかりません。たわしでがしがしこすったりしなければ、洗剤ごときでフッ素樹脂が劣化したりはしないはずです。

錆びないフッ素樹脂加工フライパンは空焼きの必要はまったくありません。鉄のフライパンのお手入れの際に、空焼きしてから再度油を塗るのは、水分が残っているとその上から油を引いても意味がなく、油の皮膜の下でフライパンが錆びてしまうからです。ちなみに、鉄製のフライパンは工場出荷時にさび防止用のクリア塗装が施されていることがあります。毒性はありませんが、最初に使う時は、長めに(5〜6分)空焼きをして塗料を焼ききったほうがいいようです。そのあと、クレンザーでしっかり洗い、もう一度空焼きして水分を飛ばした後、たっぷり油を回してから使うとよいそうです。

話がそれました。フッ素樹脂加工フライパンの話の戻りましょう。
使う時は、中火以下で使うこと。鉄のフライパンと違ってアルミは熱伝導率が高いので、強火でガンガン熱する必要はありません。また、バターや油をフライパンに落としておいてから加熱すると急激な温度の上昇を防ぐことが出来ます。「紙焼き」を食べた人なら知っているでしょう。容器の中に何か入っていれば、温度はさほど上昇しません。また、音や匂い、煙などで温度上昇を感知することも出来ます。

フッ素樹脂加工のフライパンをしばらく使っていると、焦げ付くようになることがありますが、これは多孔質のフッ素樹脂が目詰まりしている可能性大です。そういう時は、フライパンに水を張って、10分ぐらい沸騰させると効果が戻ることがあります。また、同様の理由で、たわしでがしがしこすると、樹脂の表面を傷つけてしまうため、焦げ付き防止効果が失われてしまいます。


どうやら、使用上の説明書をちゃんと読んで、ていねいに使っている限り危険はない、というのが結論のようです。うむ、ちょっと安心ですね。

------------------------------------------------------------

連れが、「これも心配やぁ」と叫んでいたので、追加調査です。はい、「アルミを摂取するとアルツハイマーになる」というやつです。テフロンの鍋やフライパンはほとんどがアルミ製です。ちょっと不安ですねえ。さらに長くなりますが、これもちょっと調べておきましょう。

えー、こちらも結論から言うと、杞憂です。


まず、アルツハイマーの原因物質としてアルミが疑われている主な理由は以下の通りです。
・アルツハイマー患者の脳内に、通常より多くのアルミが検出された
・透析患者にアルツハイマーが多発したが、水や薬品中のアルミニウムイオンを除くと発病しなくなった
・飲料水中のアルミニウムイオンが多い地域の方がアルツハイマーの発病率が高い

否定派(当然アルミニウム屋さんです)の意見。
・アルツハイマー患者の脳内にアルミが多いという事例は、追試が出来ていない。年齢を重ねると共に、脳内のアルミの量は増えていくが、アルツハイマー患者に特に多いという統計的結果が出ているわけではない。
・透析患者の痴呆は、「透析痴呆」と呼ばれるアルツハイマーとは別の病気であり、混同するのは間違い。
・アルツハイマーの発病数は、地域の平均年齢に影響されるため、統計としては意味がない。

どちらの言い分も頷けるものですし、同時に、どちらも「そうか?」という気もしますねえ。


さて、JunkyardReview的に結論を出しておきましょう。

アルミの摂取とアルツハイマーの因果関係は証明されたわけではありません。
確かに、アルミが神経障害に関連している可能性が高いことは事実です。ただし、この症例は長期間に渡ってアルミ粉末を大量に吸引したことで神経障害を患ったケースです。これはアルミの摂取量が腎臓の透析機能を上回ってしまったことが原因だと考えられます。通常の摂取では、食品中のアルミは99%は吸収されることなくそのまま便と一緒に排泄され、残りの1%も腎臓で捉えられて、尿や汗によって排出されます。アルミだろうが鉛だろうが、腎臓の機能を超える量を摂取すればなんだって体の毒です。アルミを削って粉にして毎日パクパク食べたりしない限りは、アルミで神経障害になることはまずありません。

WHOが定めるアルミの安全基準値は一日に50〜60mgですが、普通に生活している限り、一日のアルミ摂取量は4.5mg程度です。さらにいえば、アルミの摂取は飲料水や調理器具などより、食品から直接摂取する方がはるかに多いんです。たとえば、アルミの鍋で過熱した際、1時間で析出するアルミは0.06mgほど、これはワカメ1gで摂取するより、はるかに少ない量です。フッ素樹脂加工の鍋ならばまったくといっていいほど析出しませんし、コーティングされたアルミ缶もまったく問題ありません。某「買ってはいけない本」では、アルミ缶のプルタブを外した後の切り口や破片を問題視していましたが、ここから溶出する量も内容物に含まれるアルミよりも少ないはずです。どう考えても、清涼飲料水やビールに含まれる糖分の方がよほど体への負荷が大きいです。

確かに、因果関係が証明されていないわけですから、危険がないとはいえません。しかし、多かれ少なかれ、ほとんどの食料品にはアルミが含まれていますし、これらを避けるのは非現実的です(ちなみに特に多いのは順に、海草、貝、葉野菜、食品添加物などです)。また、繰り返しになりますが、日常生活で摂取するような量のアルミでは神経障害は起きません。まして、アルミの鍋をステンレスに変えたからといって、摂取するアルミの量はほどんど変化しません(アルツハイマーを理由に、法外な値段でステンレスの鍋を売りつける業者がいるそうです)。アルミを避けて生活することを考えるなら、他に避けるべきものがたくさんあるはずです。

ちなみに、アルツハイマーの研究者の間でも、アルミニウムを主要な原因物質とする説はすでに過去のものとのことです。アルツハイマーの原因は今もって不明。アルミが関係している可能性はゼロではありませんが、アルミを取りすぎるとアルツハイマーになるという言い方には、現実性も根拠もほとんどありません。食料品からのアルミの摂取量を考える限り、一般人とアルツハイマーの発病者の間にほとんど違いはないんです。

もう一度繰り返しましょう。杞憂です。ご心配なく。

(May. 26 2003 updated)

by isana kashiwai