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Aug. 28 2003
Columbia Lost 2003.08.28

コロンビア事故調査委員会最終報告書(NASA/CAIB)

8月26日、コロンビア事故調査委員会から、最終報告書が発表されました。事故から半年強、すさまじくスピーディな対応です。また、この情報開示の徹底具合は賞賛に値すると思います。今回、この報告書は、NASAのクルーオフィスや議会への提出とほぼ同時にネット上で全世界に向けて公開されました。

報告書は280ページにも及び、事実関係とその対応策、NASAへの勧告などが、かなり優しい言葉で非常に丁寧に書かれています。これまでの経緯を知らなくても、何が起こり、何が原因だったのかがちゃんと分かるようになっています。何しろイントロダクションには「スペースシャトルの基礎知識」「NASAについての基礎知識」なんていう記事が入っているくらいです。

報告書の本編は大きく以下の3つのパートに分かれています。
第1部 THE ACCIDENT(事故)
第2部 WHY THE ACCIDENT OCCURRED(なぜ、事故は起きたのか)
第3部 A LOOK AHEAD(将来のために)

第1部は、事故の概要と物理的な原因についての説明。第2部は、事故の根本原因としてNASAの歴史的な経緯、運用体制、意思決定プロセス、体質などが議論の対象になっています。そして、第3章が今後の打上げ再開と継続的な有人宇宙飛行を行う上での対応策と具体的な勧告が述べられています。

物理的な原因は、これまで何度も報道があったように、打上げ時の断熱材の衝突です。
「打上げ時の外部燃料タンクから断熱材の脱落し、オービター左翼前縁部へ衝突、帰還時に、この損傷箇所から大気圏突入時の熱が流入し、内部構造が破壊され空中分解」というシナリオです。

しかし、この報告書では、この事故のプロセスよりもむしろ、NASAの運用体制や体質に焦点が当てられています(分量的にも第2部は第1部の倍ぐらいあります)。つまり、シャトルの弱点を直せば済むという問題じゃないんだ、ということですね。

まだ、報告書の内容を仔細に読んだわけじゃありませんが、確かにシャトルの運用がその計画当初からかなり問題を抱えていたのは事実です。シャトル計画はかなり見切り発車的にスタートし、思ったよりもメンテナンスコストがかかりすぎて、年間打上げ数が予定を大幅に下回ったという経緯があります。本当なら、シャトルは月一回以上のペースで運用され、一台がミッションを行っている最中には、もう一台がバックアップとしてすぐに打ち上げられる状態になっている、という体制がとられるはずでした。蓋を開けてみれば、再使用可能とは言うものの、莫大なメンテナンスコストと時間がかかり、とてもじゃないけれどそんな運用体制を取ることは不可能な状態。そして、そのまま20年以上の月日が流れ・・・。本来過渡的な使用だったはずのシャトルは、NASAへの予算カットの影響を受けて次世代機の開発が次々と潰れる中で、ずるずると成り行きで運用を続けてきたんです。

チャレンジャー事故の時にも、この運用体制が問題になりましたが、打ち上げ時の事故ということもあって、シャトルそのものの安全性に焦点が絞られたため、この根本的な運用上の問題点は残されたままになっていました。今回の事故の本当の原因は、シャトルそのものの安全性よりも、むしろこの運用上の問題点にある。事故調査委員会はそう結論付けたようです。

一部の報道では、報告書に記載されていた「コロンビアの乗員を救出する方法があった」という内容が大きく扱われていますが、これは上記のようなシャトル運用の経緯を踏まえたうえで議論されるべきものです。確かに、今回のミッションでは、「たまたま」次のミッションのためにシャトルの準備が最終段階を迎えていたため、チェックなどを省略して無理やり打ち上げれば間に合ったかもしれません。でも、根本的には、これが「たまたま」であった事が問題なんです。冬山で遭難した人間をシャツ一枚で救出に行くことが、問題の解決から程遠いことは誰の目にも明らかでしょう。可能だったかもしれませんが、それは無謀と紙一重だったはずです。

シャトルの運用そのものは、来春にも再開される予定です。シャトルの構造上の改修はさほど大きくありませんから、これは充分に現実的なスケジュールだと思います。問題はその後、この綱渡り状態をどうやって解消するかにあります。この事故の教訓を本当の意味で生かして「安定的な運用」を実現するのは、そう簡単なことではありません。でも、これは私たちがあそこにいくのなら、いつかは通らなければならない道です。以前書いたように、宇宙飛行士たちはあの場所を「日常」にするために、時に命を賭してあそこへ出て行くことを生業とする人々です。だとすれば、この事故をその端緒とすることを置いて、「彼らの意志を継ぐこと」はありえないんじゃないか、そんな気がします。

(Aug. 28 2003 updated)

by isana kashiwai