Junkyard Review     index     top


Dec. 01 2003
原因の在処

http://www.jaxa.jp/press/2003/11/20031129_h2af6-sac_j.html

H-IIAの打ち上げが失敗しました。色々な意味で「またか」と思います。人の命が失われなかっただけ、良かったというべきなんでしょうか。原因究明にあたられている皆さん、本当にご苦労様です。辛い仕事だとは思いますが、がんばってください。

直接の原因は、第一段の推進力を助ける固体燃料ロケットブースターの切り離しに失敗しロケット本体からぶら下がったままになったことで推力が足りず、予定の速度が出せなかったことです。切り離し用の爆発ボルト(仕込まれた火薬によって分割するボルト)そのものに何らかの不具合があったか、あるいはそこに切り離しの指令を送るための回路に問題があったか今のところはわかりません。事故調査委員会の調査結果を待つことになります。

※どうやら、ノズルが破損したせいで、点火のための配線が焼き切れたことが原因のようです。構造的な欠陥の可能性もあり、対策も含め復帰にはかなり時間がかかるかもしれません。

僕が少し驚いたのは、事故後の記者会見で記者から理事長に対して「辞任を含めた責任のとり方は」みたいな質問があったことでした。理事長は「責任を感じている」と述べただけですが、あの場所あの瞬間にその問いが飛び出したことに少しびっくりしました。まあ、ごく普通と言えばごく普通の反応なんでしょう。でも、まず事故の責任をとって、プロジェクトのリーダーが辞任をするという考えた方が「ごく普通」になってしまうということそのものが、この先の事故究明のプロセスを暗示しているようでなんとなく不安になります。今回の事故にはJAXAの組織としての犯罪性はありません(今のところはそんな話はありません)。JAXAのトップが下した判断が間違っていたという確固たる証拠があるわけでもありません。それでも、まず誰が責任を取るのかということが問題になってしまうことにとても疑問を感じます。今回の事故の対応が、原因の追求ではなく責任の追及に矮小化してしまわないか少し不安です。

事故の原因を明らかにする理由は、「責任の所在を明らかにするため」ではないはずです。当然、次に同じような事故を起こさないために事故原因の究明がなされなければならない。プロジェクトのリーダーが真っ先に考えるべきことは、なぜ事故が起こり、事故を防ぐためには何をすればいいかじゃないでしょうか。この場合、誰かに責任をとらせるための報告書はまったくといっていいほど無意味です。プロジェクトのリーダーは責任をとってやめるのが仕事ではありません。

ちなみに、コロンビアの事故ではNASAの長官は辞任はしていません、シャトルプロジェクトの主任はNASAを退職しましたが、これはもともとSTS-107が終了した時点で退職を予定していたからすぎません。シャトルの安全監査チームが解散しましたが、その理由は新しい安全管理組織の立ち上げにあたり、チームの役割が終わったからです。僕の知る限り、今回の事故で責任をとって辞任したNASAの幹部はいないはずです。

コロンビアの事故の直後、予定されていた着陸時間の一時間後には、NASAの外部の人間を含む事故調査委員会が組織され、徹底的な情報開示とともに事故原因の特定と、今後の対処のための活動が開始されました。そして、数ヶ月の間毎週のようにプレスカンファレンスが開かれ、調査の進行状況がリアルタイムで報道機関に開示されました。確かに、NASAはチャレンジャーの事故を活かせていなかったという指摘はありますが、この調査のプロセスについては、考えうる限り最善の方法がとられていたように思います。

事故を100%防ぐことは出来ません。宇宙開発は必然的に失敗のリスクを抱えています。過去の事故から本当に学ぶべきことは、事故を起こさないための工夫だけではないはずなんです。不幸にも事故がおきてしまったときに、如何にそれに対処し、どれだけ早く安全と信頼を取り戻すことが出来るか、そのことも活かされてしかるべきじゃないでしょうか。

何千人という人々がかかわっている巨大プロジェクトに「単純ミス」も「ケアレスミス」も「偶然」もありません。単純ミスにはそれがおきた原因があるはずです。単純ミスを防止する仕組みがうまく機能していなかったのか、単純ミスを誘発する組織的文化的問題があったのか。設計にミスがあったのなら、その設計を通してしまった理由はなんだったのか。どんな失敗も、どこかで人とその意思決定の結果からおきます。「フェイルセーフ」は組織の中にこそ組み込まれていなければならない機能のはずなんです。確信があるわけではありませんが、「責任の所在を明らかにする」という意識からは、こういう発想が出てこないんじゃないでしょうか。

NASAはコロンビアの事故について、その初期において見事な対応を行い、すばらしい報告書が作られました。その対応が信頼を取り戻すことに大きく寄与していることは間違いないでしょう。JAXAがその先例から何らかを学んでいることを願いたいと思います。

参考)コロンビア事故最終報告書 非公式日本語版

(Dec. 01 2003 updated)

by isana kashiwai