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Feb. 03 2004
Dear Rocketeer.

ディア、ロケッティア。君と会えなくなってずいぶんになる。あの頃はいつも一緒にいて、いろんなことを話したけれど、君はもう僕のことは覚えていないかもしれない。まあ、きっとそれは仕方がないことなんだろう。少し思い出話をしよう。今日はそれにふさわしい日だから。


そういえば、あの日も青空だった。真夜中のテレビはアメリカの空の青。発射台の上のシャトルは真っ白に輝いていて、できないことなんて何もないように見えた。カウントダウン、エンジン点火。君を乗せたシャトルは轟音とともに真っ青な空に向かって駆け上り、74秒後、突然爆発した。雲一つなく晴れた空と、煙の白、燃え上がる炎の赤、涙が出るぐらいきれいだったのを今でもはっきり覚えている。あのとき僕の中で何かが死んだ。

あの頃、小さな錆びたボルトとナットが僕の宇宙船だった。地面に顔を近づければ、砂場は異星の砂漠に見えた。薄汚れた池は危険な沼地に見えたし、花壇は何が潜むとも分からないジャングルだった。学校の校庭はどこまでも広く、探検し尽くすなんてとてもできそうになかった。

やがて、背が伸びて、他に楽しいことが沢山できて、僕は校庭の隅の秘密を忘れてしまった。振り返れば、あの場所は笑ってしまうぐらいに小さく、なぜ、何があんなに楽しかったのか、僕にはもう思い出せない。僕はあの小さな宇宙船を大切に大切にポケットにしまい込んで、結局そのことを忘れてしまったんだ。

ふたたび君が空から墜ちてきたあの日。やっぱりテレビの中の空は、どこまでも青くて遠かった。もうすっかり大人になったはずの僕は、テレビの前で意味もなくおろおろし、駆け出したくなるのを必死で押さえて、テレビにかじりついていた。

君はきっとまたあの青空へと向かうんだろう。理由やしがらみや大義名分は君とは関係ない。君を動かしているのはそういうものじゃない。君は心からあそこに行きたいと願い、そこに向かって手を伸ばす。僕は君のそういう心のありようを少しうらやましく思う。じゃあ、僕らはどうなんだろう?少し後ろめたさを感じながら、君を送り出す僕らは?

残念だけど、人類が月を、火星を目指すのはサイエンスのためじゃない。まして夢や希望のためでもない。アポロだってそうじゃなかったし、宇宙ステーションだってそうじゃない。それはケネディやブッシュの演説を見たって明らかだ。もちろん、お金や政治のことは大切だけれど、でも本当にそれだけなんだろうか?

きっと僕らはただ、君の言葉が聞きたいんだ。君が遠くの方から「あぁ」とか「おぉ」とかいうのに耳を澄ませる。そして帰ってきた君に、こう問いかける。「ねえ、どうだった?」そう、大切なのは、君が実際にそこへ行き、その目で何かを見てきたという事実。今も誰かが、そこに向かって手を伸ばそうとしているという事実だ。

たった今も、軌道上には人がいて、国際宇宙ステーションの小さな窓から地球を見下ろしている。遠く火星では、人のつくった小さなロボットが誰も触れたことのない岩にむけて腕をのばしている。遥か太陽系の果てでは探査機が地球に向けて微弱な電波を送信し続けている。そういうことが、少なくともそれを知る人々の心のありようを、ほんの少しだけ変えているんじゃないだろうか?それはきっと悪いことじゃないはずだ。そして、その小さな変化が、ほんの少しだけ世界のありようを変えているんじゃないか、僕はなんとなくそんな気がするんだ。

夢や希望じゃロケットは飛ばないけれど、ロケットは夢や希望をのせて飛ぶ。
君の言葉が、あの手のひらのボルトとナットを、もう一度小さな宇宙船に変える。


ディア、ロケッティア。どうやら僕は、まだ君と一緒に行けそうにない。
申し訳ないけれど、かわりに行ってきてくれないだろうか?
帰ってきたら、お土産話を聞かせておくれよ。

僕はここで、あの小さな宇宙船を握りしめて、今も君を待っている。

(Feb. 06 2004 updated)

by isana kashiwai