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Aug. 04 2004
水星は土星よりも遠い

MESSENGER Web Site
水星探査機メッセンジャーが2004年3日午前2時15分(アメリカ東部標準時)ケープカナベラルから無事打ち上げられました。水星は30年前にマリナ−10号が近傍をフライバイしながら始めて探査を行って以来、探査は行われていません。地表の40%はいまだ撮影されておらず、謎の多い惑星です。もちろん水星軌道に探査機が投入されるのは始めてのことです。

メッセンジャーは地球や金星の重力を利用して加速するスイングバイと言われる手法を用いて徐々に速度を落とし、7年間かけて水星軌道に到達します。旅の途中、地球で1度、金星で2度、水星で3度、スイングバイを行います(参考:飛行行程図。こんなにめんどくさいことをするのは、水星の軌道に探査機を乗せるのが、もの凄く大変だからです。

え、太陽のそばなんだから、簡単に行けるだろうって?そうは問屋が卸しません。地球は太陽の周りを回っていますから、スイングバイを使わずに直接水星へ行くためには、まずその初速を打ち消して減速しなければなりません。具体的には水星の公転軌道へ移行するための、太陽を中心とした楕円軌道に乗らなければなりません。この軌道のことを遷移軌道(ホーマン軌道)と呼びます。さて、探査機は太陽にひかれて徐々に速度を上げていきます。次に水星の軌道と交差する点でこの上がった速度を再び減速し水星の軌道に乗ります。この2回の減速のためにかなりの推進力が必要なんです。

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計算してみましょうか。

S=中心となる天体の重力定数、rp=出発軌道の半径、ra=目標軌道の半径、とした時。
ある軌道からある軌道への遷移軌道に乗るために必要な速度Vpを出す式は以下の通り。

Vp=sqrt(S/rp)*sqrt((2(ra/rp))/(1+(ra/rp)))

また、遷移軌道と目標軌道が交差する点での速度Vaを出す式は以下の通り("sqrt"はルート記号です)。

Va=sqrt(S/ra)*sqrt(2/(1+(ra/rp)))

地球→水星だと数値は以下の通り(中心となる天体は太陽です)
S=132700000000m^3/s^2
rp=149597870km
ra=57910000km



水星で計算するとVpが22.25km/s。地球の公転速度が29.78km/sですから、地球から水星へ向かう遷移軌道に乗るためには7.3km/sの減速が必要です。また、Vaが57.48km/s。水星の公転速度が47.87km/sですから、遷移軌道から水星の公転軌道に乗るためには9.6km/sの減速が必要です。もちろんこの計算は目安でしかありません。探査機を地球の軌道に乗せ、水星の周回軌道に乗せるために、さらに調整が必要ですがここでは省略します。

さて、これが火星へいく探査機だと、2.95km/sの加速で遷移軌道に乗り、2.6km/sの加速で遷移軌道から火星の公転軌道に乗ります(ra=227936640km)。火星にいく方がずいぶん楽ですねえ。

さらに、土星まで行ってみましょう、10.29km/sの加速で遷移軌道に乗り、5.5km/sの加速で遷移軌道から土星の公転軌道に乗ります(ra=1426725400km)。単純に速度の変化量を比べても、土星に行くより水星に行く方が大変なのが分かると思います。

更にいえば、地球からの太陽系脱出に必要な加速は16.7km/s。実は水星に行くのは太陽系を脱出するより大変なんです。

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さらに、大変なのは、積んでいく燃料の問題です。
火星や土星のような外惑星に行くのなら、公転速度はさほど高くありませんから、遷移軌道から目標惑星の公転軌道に乗せるための推進力は少なくて済みます。最初にばーっと加速して遷移軌道に乗り、軽くなった機体を少し加速すれば探査機は公転軌道に乗ってくれます。しかし、水星や金星に行く場合には、遷移軌道に入るときより公転軌道に乗るときの方が推進力がたくさん必要になります。つまり、遷移軌道に入る時には燃料を満載した重い機体を加速(減速)してやらなければいけません。たとえ、加減速の量が同じだったとしても、最初に大きく加速するか、後で大きく加速するかでは消費する燃料が全然違うんです。

実際には、水星の公転軌道に探査機を投入するために大量の燃料を抱えていくのは非現実的です。そのため、メッセンジャーは各惑星の重力を利用しながら、ゆっくりゆっくりスピードを落としていくんです。

(Aug. 04 2004 updated)

by isana kashiwai