Junkyard Review     index     top


Sep. 22 2004
地動説が正しいのはなぜですか?

<月の満ち欠け、分からない 危うい、小学生の天文知識 (Yahoo)
小学生の4割「太陽が地球を回ってる」 国立天文台調査 (ASAHI.COM)

これは、全国の小学生を対象にアンケートをしてみたら、約4割が月の満ち欠けの理由を正しく答えることができす、太陽が地球の周りを回っていると思っていた。というニュースです。

ああ、嘆かわしい。理科離れはここまで進んでいるのか。これでは、日本の理科教育はどうなってしまうんだ!と、言いたいところですが。実は、小学生では「月の満ち欠けの理由」も「地動説」も習わないんです。「月の満ち欠けの理由」を習うのは中学生、「地動説」は高校生です。

小学校の学習指導要領では、「事象を観察し、そこに変化と秩序を見いだすこと」を目的としており、その背後にある事象の理由や原因を説明することは最小限にとどめられています。個人的には、理科教育というのは世界の多様な見方を身につけるところから始めるべきだと思いますし、実験や観察などを中心とする体験型の授業を充実させて、発見や驚きの機会をなるべく増やすことは何よりも優先すべきことだと思います。その意味ではこの方針はさほど的外れじゃないんじゃないでしょうか。

この調査を行った、縣秀彦助教授は、こうした小学校の理科教育で教えられることと、テレビなどで普及している常識とにギャップがあるために理科離れが起こっているとの主張から、指導要領の改訂を進めるべきだと考えているようです。確かにうなずける点もなくはありませんが、一方で、実験や観察の時間が圧迫されて、世界に触れる最良の機会である小学校の理科が、ただ「事実」を詰め込むだけの無味乾燥なものになってしまわないかどうかが、少し心配ですね。

小学校学習指導要領 -理科

*


じゃあ、私たちが地動説を習ったのはいつ頃でしょうか?

実は、地動説を理解するためにはかなり多くの事実を積み重ね、それらの事実をかなり抽象的なレベルで組み合わせる必要があります。もう一度よく考えてみましょう。地動説は、同じように東から昇り西へと沈んでいく月と太陽について、一方は私たちの周りを巡り、もう一方の周りを私たちが回っていると教えます。これはずいぶん抽象的で高度な概念じゃないでしょうか。これを理解するためには、かなり周辺の知識が蓄積されていないと難しいと思います。

「なぜ、天動説より地動説の方が優れているのか」という問いに答えられる中学生がどれくらいいるでしょうか?じつは、中学生ではこのことは習いません。実は中学生の教科書には「太陽の周りを地球が回っています」としか書かれていないんです。何故そのことが分かるのかという問いに答えられるのに十分な情報は中学生の教科書には載っていません。
中学校学習指導要領−理科

じつは「天動説と地動説」という節が理科の教科書に現れるのは高校になってからです。
高等学校学習指導要領 - 理科
「惑星の観測や観測資料から得られる惑星の運動の様子を基に,惑星の軌道を作図するなどの実習を通して,天動説から地動説への宇宙に対する見方や考え方の転換を扱うこと」
この記述がすでに地動説が前提となっていることに注意して下さい。高校では、天動説から地動説への転換という歴史に基づいて、地動説が天体の運行をうまく説明するという事実を学ぶだけです。天動説が覆された理由は、少なくとも全員が受講する「理科」の授業の中では扱われません。

*


せっかくですから、もう少し地動説の話を続けましょう。
さて、あなたは「地動説がなぜ正しいか」知っていますか? 

はい、「惑星の逆行」と答えた人、正直に手を上げて。あなたは間違っています。惑星の逆行は天動説でちゃんと説明できます。天動説のなかでも、惑星の逆行は「周転円説」や「離心円説」など複数の仮説が出され、それぞれがかなりの精度で惑星の運行を説明していました。天動説は「キリスト教的世界観の盲目的信仰」などではなく、観測事実を理論的に説明する立派な科学だったんです。

コペルニクスとガリレオが証明したと答えた人。はい、あなたも間違いです。かれらは、地動説という考え方を唱えただけで、証明はしていません。コペルニクスは「こっちの方がシンプルだ」という理由で地動説を唱えました。彼の導きだした数値は精度が低く、当時は天動説の方が精度が高かったと言われています。ガリレオは、太陽黒点が移動していること、木星の衛星が木星の周囲を巡っていることなどから、地動説の可能性を主張しただけです。これらは、間接的に地動説の正しさを支持するものですが、天動説を否定するものではありません。結果として2人は正しかったものの、天動説を覆せるだけの根拠を彼らが示したわけじゃないんです。

はい、ケプラーの法則(あるいは+ニュートンの万有引力の法則)と答えた人、惜しい!でも、この法則は「もし仮に地動説が正しいとすると、その運行を非常に上手く説明する」という以上のものではありません。ただし、この頃には合理主義の台頭によりキリスト教的な世界観が重要視されなくなっていたことも相まって、徐々に地動説は定説となっていました。でも、地動説は証明されたわけではなく、あくまでも仮説に過ぎませんでした。

実は、地動説が観測によって証明されたのは19世紀。フーコーの振り子による地球の自転の証明と、年周視差の観測による地球の公転の証明によってです。約300年もの間、地動説と天動説は並列状態にあったんです。

1851年、レオン・フーコーは、1日中振れているような巨大な振り子を使えば、地球の自転によって、振り子の振れる方向がずれていくことに気づき、実際にデモンストレーションを行いました。これによって、始めて地球の自転が証明されたのです。年周視差というのは、地球の公転によって、1年を通じて天球の恒星の位置がずれて見える現象のことで、コペルニクスの時代から地動説を証明するものとして多くの天文学者が検出を目指して観測を行っていました。しかし、そのずれは非常にわずかで検出することができず、長年、天動説を支持する結果とされてたんです。19世紀になって観測精度が十分に上がり、1838年にヴィルヘルム・ベッセルによってようやく年周視差が検出され、地球の公転が確認されました。

ちなみに、この両者を学校で習うのは、高校の地学の授業です。


(Sep. 22 2004 updated)

by isana kashiwai