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Nov. 10 2004
渡り鳥は山を越えて

ある海洋学者から、『地球の緯度別・月別の日照量』というデータを教えてもらいました。これが凄く面白かったので、ちょっと紹介したいと思います。なにはともあれ、まずそのデータを見てもらいましょう。

以下のデータは、NASAが提供しているCGIの出力を整形したものです。計測データではなく、太陽と地球の位置関係、地球の地軸の傾きなどから算出されたシミュレーションの値です。サイトにはこのデータを出力するプログラムのソースも置いてあります(Fortranですけどね)。

Monthly Latitude Insolation (NASA)


2004年の月別・緯度別の日照量シミュレーション


LatitudeJanFebMarAprMayJunJulAugSepOctNovDecAnnual
-90500307570000011216445552173.9
-804923041006000052222438544179.7
-704713251705440130122266423519198.3
-6047436823612150253791190319441505237.9
-504904082971891148398158254366464512285.8
-40499438348253181149165224310404479514330.1
-30498457389311246216230284357430483507367.1
-20484462418360306280292336393444475487394.7
-10458455435398359338347380418444454456411.7
0420434439425402388393413429432421413417.4
10371402429439435428429433428407377360411.5
20313357406441455458454442414370323299394.3
30248303371429464476468438387322261231366.5
40178240325405461483470422349265193160329.4
5010717226937044848146239530020112389285.0
60411022053264274754483592421325627236.9
701361362764134884473191786360197.3
800164238429512467304111900178.5
90002123643552047530871000172.8
Globe353350345339334331331333338344349353341.8



縦軸が緯度、横軸が月名になります。一番右側は緯度別の年間平均、一番下は各月の平均です。
緯度別の平均を見ると赤道付近が一番高く、極地方はかなり小さめです。一方月別平均では年間を通じて地球に当たっている光はあまり大きく変化しません(当たり前と言えば当たり前です)。この変化は太陽と地球の距離が微妙に変化していることに起因するものです。中の数値は、北極で冬に、南極で夏にゼロが並んでますね。

このままだと、何がなんだか分からないのでグラフにしてみましょう。



ずいぶん分かりやすくなりましたね。ほら、面白くありませんか? そうですか。

詳しく見てみましょう。グラフの真ん中を、Y字を逆にした形に尾根が走っています。この部分は非常に高い日照量を持った地域です。ちょっと見にくいかもしれませんが、緯度0度付近が年間を通じて高くなっているのが分かると思います。そして冬には緯度-90度付近まで、夏には逆に緯度90度付近まで同じぐらい日照量の高い地域が広がっています。

ご存知のように緯度90度、緯度-90度というのは、地図上ではそれぞれ北極と南極に相当します。緯度0度、つまり赤道付近の日照量が大きいのは何となく分かりますよね。この地域では一年を通じて太陽は真上まで昇り、かなり強烈な光が地表に降り注ぎます。一方、地軸が傾いているために、緯度の高い(ないし低い)地域では、地表に対して太陽光は斜めに当たり、その角度は年間を通じて変化します。極地方に行けば行くほど夏と冬の日照量の差が大きくなるのはそのためです。

でも、緯度が高い(低い)地域では、太陽光の差し込む角度だけでなく、一日の長さが変化します。北半球では夏の間、昼が長く夜が短くなります。南半球はその逆ですね。そして、極地方では太陽が全く沈まない「白夜」と太陽が全く昇らない「極夜」が存在します。

さあ、もう一度グラフを見て下さい。グラフの一番低いところ、先ほど見た表の中にゼロが並んでいる部分が「極夜」です。そして、グラフの尾根に注目して下さい。季節によって、赤道付近と変わらない、あるいは赤道付近を超える量の日照が極地方にあるのが分かると思います。つまり、極地方は、光の強さは赤道ほどではないものの、光が当たっている時間が長いために、季節によっては相当な日照があるということです。

どうです。面白いでしょう。ドキドキしませんか?しませんか、そうですか。
じゃあ、少し違う話をしましょう。

たとえば、ツバメは冬の間をフィリピンやマレーシアで過ごし、夏に日本で繁殖することが知られています。また、ザトウクジラやナガスクジラなどの渡りを行う鯨は、多くの種が冬の間に緯度の低い赤道の近くで繁殖を行い、夏を緯度の高い極地方で過ごします。あるいは、南極と北極の間を往復することで有名なキョクアジサシ。この鳥は6月前後の繁殖期を夏の北極圏で過ごし、太平洋東部と太平洋西部に分かれてはるばる16000kmを渡り、12月前後の非繁殖期を夏の南極周辺ですごします。

彼らが渡りを行うのは何故でしょうか? なぜ彼らは、わざわざ暖かい赤道付近を離れて渡りを行うんでしょうか?年中暖かい赤道付近にずっととどまっていればいいのに。かつて、教科書などにはこう書かれていました。「渡り鳥達は、夏を涼しい北の地域で過ごします」。本当でしょうか? 渡り鳥が避暑?赤道付近の「夏」の暑さが鳥達にこんなに長大な距離を渡らせるほどの淘汰圧をかけるんでしょうか(平均で見れば赤道地方はさほど大きな気温変化はないはずです)。赤道のわずかな季節変化はむしろその暑さに適応してしまう個体の方が有利になるような気がします。

このグラフは、その疑問に1つの答えを与えてくれます。さて、もういちどグラフをよく見てください(このグラフが、主に地軸の傾きから算出されたシミュレーションであることをお忘れなく)。彼らがきれいにグラフの尾根の部分を渡っているのが分かるでしょうか。今回、渡り鳥や鯨の月ごとの位置を示すデータを入手することができなかったために正確な検証はできませんが、おおざっぱな渡りのタイミングだけみても、彼らの移動がこのグラフの尾根部分に一致するのが分かると思います。これは予想に過ぎませんが、彼らは、今いる地域の日照量が減少し始めて、渡った先の地域が日照量が増加し始める絶妙のタイミングを縫って飛んでいるんじゃないでしょうか。

日照量が大きくなれば、食物連鎖の底辺を支えるリソースである植物の成長が促進されます(海中なら植物プランクトンですね)。植物が豊富にあれば、それを食べる草食動物も育ちます、さらにそれらの動物をえさにする肉食動物も生きやすくなるでしょう。極寒のはずの極地方の海があれほどまでに豊かなのはちゃんと理由があるんです。しかも、赤道が一年を通じて日照があるのに対し極地方ではある一時期に日照が集中します。なにしろ、一年のある期間はずっと真っ暗なんですから。おそらく、そのほんの短い期間に爆発的に繁殖・成長が起こるでしょう。もしかしたら、両極はある時期、赤道直下より豊かなリソースを持っているのかもしれません。

もちろん、これはグラフと動物達の渡りに連関があるように見えるというだけにすぎません。連関があること、すなわち原因と結果ではありませんし、もっと他の理由があるのかもしれません。それでも、彼らが地軸の傾きにしたがって少しづつ変化する光を追って旅をしていると考えるのは、なかなか楽しいと思いませんか?


付記)
実は、この全く逆、グラフの低いところを狙って渡る鳥がいます。一番有名なのは白鳥ですね。なぜでしょう?ライバルや天敵がいないからかな?

(Jan. 07 2005 updated)

by isana kashiwai