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May. 10 2005
天空を見つめる数多の瞳



天文学関連のデータをいじり回していたら、なかなか面白いチャートができました。実はこのチャート、これを肴にお酒が飲めるぐらいに面白いんですが...ちょっと分かりにくいですねえ。えーと、一言で言えば、これは「現代天文学の地図」です。いいかえるなら、このチャートは「天文学者が何を使って、何を、どうやって見ているか」が書いてあるんです。

チャートの真ん中に引かれた色のついた帯が「電磁波の波長」です。左にいけば行くほど波長が長く、逆に右に行けばいくほど波長が短くなります。単位はm、軸は対数です(1目盛り増えると0が1つ増えます)。他の項目はすべてこの電磁波の波長を基準に配置されています。その下にあるのは、電磁波の波長に対応した「温度」。更にその下にあるのは、その温度に対応した「天文現象」です。

「電磁波の波長」のすぐ上に並んでいるのは「地上望遠鏡」です。青い線はその望遠鏡が主に観測している電磁波の範囲を示しています。その上の赤いラインは各波長の電磁波が大気でどれくらい吸収されてしまうかを表したグラフ。縦軸は高度です。その上に並んでいるのは衛星軌道上に設置された「宇宙望遠鏡」。青いラインは同じく観測している波長を表しています。


さて、一つ一つの項目を仔細に説明していると、それこそ本が一冊書けてしまうので、大雑把に一回りしてみましょう。

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電磁波を現す帯の真ん中に小さく七色の部分があるのが分かるでしょうか?ラベルにもあるようにここが「可視光」の領域です。つまり、人間の肉眼に見えているのはこのわずかな範囲の「光」だけです。われわれが見ているすべての「色」はこの領域の中に納まってしまうんです。いかにわれわれが普段限られたものしかみていないかが分かるでしょうか。星の世界では他の波長でもいろいろな現象が起きています。実は人間の目は星の世界を見るのには、まったく向いていないんです。

あらゆる物体はその表面温度に応じた電磁波を発しています。絶対零度の物体は存在しませんから「すべての物体は光っている」と言い換えてもあながち間違いとはいえません。大雑把に言えば、赤外線カメラで撮影すると真っ暗闇の中で人の姿が光って見えるのと、肉眼で星が光って見えるのは同じ現象なんです。あなたの体は体温に応じた赤外線領域の電磁波を放っていて、星はその表面温度に応じた可視光の電磁波を放っているわけです。(ただし、ある物体が電磁波を出しているからといってそれに対応する温度をもっているとはいえないことに注意してください。)


宇宙には数億度という超高熱現象から絶対零度に近いような超低温の現象まで様々な現象がありますから、これらの現象を観測するためにはそれぞれの現象に適した波長の電磁波で宇宙を「見る」必要があるわけです。

たとえば、電波から赤外線領域では、他の天体の輻射熱や、物質同士の摩擦熱のような比較的穏やかな温度、「ほんのり暖かい」ぐらいの現象が観測できます。あるいは、宇宙が膨張していることで本来の波長からずれた、遠方の現象なんかもこの波長で観測できます(3Kの宇宙背景放射なんてのが有名ですね)。可視光から紫外線にかけては、主に核反応による「熱い」現象です。太陽や他の恒星などがこれに当てはまります。さらに波長が短いX線やγ線を放出するのは、星の爆発や、ブラックホールなどのきわめて強い重力の下などの極限状態での現象です。

ちなみに、波長と温度の関係式は『λ*T= 2897.8』(ウィーンの変位則)です。λが波長(単位μm)、Tが温度(単位K)になります。変形すれば、波長から温度、温度から波長への変換ができますね。

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さて、このような天文現象を観測するために、天文学者たちは各波長域での観測機器を発達させてきました。電波望遠鏡然り、可視光領域での大型望遠鏡然り、赤外線を検出するフィルムやCCD然り...でも、この観測機器の開発には大きな障壁がありました。地上から宇宙を観測するときによく問題にされるのは「大気の揺らぎ」ですが、これは補償光学などの技術開発によりかなり改善されつつあります。それでもなお乗り越えることのできない壁があるのです。

チャート中、地上望遠鏡と軌道上の望遠鏡の間をジグザグに走っている赤い線に注目してください。電磁波は波長によって大気中の透過率が違います。この赤い線は、各波長が半分の強さになってしまう高度を表しています。

さて、可視光領域から赤外線の一部にかけてと電波の領域に谷があるのが分かるでしょうか?実は、これ以外の部分では、星から届く電磁波が空気中で吸収されてしまって地表にはあまり届きません。言い換えましょう。地球の大気は可視光と電波で見たときだけ透明なんです。あとの波長では、地上から星はほとんど見えません。

地上に電波望遠鏡と可視光望遠鏡しかないのはそういう理由なんです。地上望遠鏡と宇宙望遠鏡の観測領域を見ると、ちゃんと補い合っているのが分かると思います(実は、EUVEは退役してしまったので今はこの領域に観測の穴があります。これはこれで、面白い話があるんですが...これは、また今度)。




この画像のPDF版とソースを置いておきます。
PDF版
http://www.lizard-tail.com/isana/tmp/spectrum_050510.pdf
ソース(使用ソフト:Expression3)
http://www.lizard-tail.com/isana/tmp/spectrum_050510.xpr

本チャートについて作者は著作権を主張するつもりはありません。ただし、内容については作者は責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。



by isana kashiwai