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Jun. 09 2005
回る、回るよ、銀河は回る。

実は3倍の大きさだった、M31アンドロメダ座大銀河 (AstroArts)
Andromeda Galaxy Three Times Bigger in Diameter Than Previously Thought (Caltech Press Release)

我々の銀河に最も近い銀河である「アンドロメダ大銀河」をちゃんと測ってみたら、その周辺に分散していた天体もアンドロメダ銀河と同期して回転していた、という観測結果が発表されました。この周辺の天体を含めると、アンドロメダ銀河はこれまで考えられていた3倍のサイズがあるということになります。ひゃー!

アンドロメダ銀河は「大銀河」というぐらいで、そもそも見た目が大きいんですが(満月の約6倍)、今回の結果を考えるととんでもないサイズになります(本体はともかく、周辺の天体は肉眼じゃ見えませんけどね)。ちょっと試しにやってみましょう。アンドロメダ銀河の見かけの大きさは角度にして約3度。単純に考えてもこの3倍で約9度ですから、1m先の16cmのものと同じサイズです。親指と人差し指がL字型になるように開いて、手をいっぱいに伸ばしてください。それぐらいのサイズです。でかっ!

で、それが何か?といいたい所ですが、実はこの話こう見えてなかなか奥が深くて、おもしろいんです。

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実は「銀河の回転」というのはかつて大論争を巻き起こしたことがありました。普通、ああいう風に粒子状のものが重力で集まって回転していると、回転の中心から外に離れるにしたがって回転速度が落ちていくはずです。太陽系の惑星を想像すればわかりやすいかもしれません。重力の中心からはなれれば離れるほど、公転速度は遅くなっていきます。銀河の場合もそれとおなじです。内側の星々は、外側の星に対してひとつの大きな星と同じように作用するので、外側に行けば行くほど回転速度が落ちるというわけ。そう、「普通」ならね。

でも、本当はそうじゃありませんでした。実際に観測してみたら、銀河を構成する天体の総重量からすると考えられないようなスピードで銀河の周辺部が回転していたんです。外側に行ってもぜんぜん速度が落ちない。うゎお、びっくり!だって物理法則に反してるよ!考えられる理由は3つ。測り間違えたか、物理法則が間違っているか、あるいは観測にかからないような物質が大量に存在するか。当然みんな最初のひとつを疑いました。でもどの銀河を測っても、やっぱり周辺部で速度が落ちない。まあ、さすがに2番目は考えられないから、ありうるのは最後のひとつ。ここからかの有名な「ダークマター」という概念が生まれたというわけです。

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実は、「もしかしたら宇宙には目に見えない物質がたくさんあるかもしれない」ということを始めて提唱したのはフリッツ・ツウィッキー(Fritz Zwicky)。彼は1933年に星雲を構成する物質の観測結果から、それが飛び散ってしまわないためには見えている物質だけでは足りず「失われた質量(Missing Mass)」があるはずだと指摘しました。でもこの人とても優秀な天文学者だったんですが、一方でかなり厄介者だったみたいです。同じ研究をした人に「おまえ、俺の研究ぱくっただろ!」と難癖をつけたりしたもんだから、彼の研究の追試をする人がいなくなっちゃった。

で、彼の研究はしばらくお蔵入りすることになったわけです。でも、みんななんとなーく気になっていたんですね。ちょこちょこ観測が行われる中で、じつはツウィッキーの主張を裏付けるような結果が出たりしていました。でも、やっぱり、みんななんとなーく横目で見ながらこの問題に本腰入れようとする人はほとんどいなかったんです。

この「失われた質量」をまったくべつの形で確かめたのが、最初に述べた「銀河の回転」に関する観測結果でした。この発見したのはヴェラ・ルービン。彼女は最初は当時大流行だったクエーサーの研究をしていましたが、その生き馬の目を抜くような研究競争に嫌気がさして、ちょっと地味な銀河の運動に関する研究に移りました。あーこれで、肩の力を抜いて研究ができるわ、とおもっていたらそれこそ天文学をひっくり返すような発見をしちゃったわけです。よかったんだか、わるかったんだか。

それまで、銀河の回転速度の観測はあまり重要な研究とはみなされていませんでした。そりゃそうでしょう、りんごがある一定の速度で足元に落ちてくるのと同じように、銀河も物理法則にのっとって回転していると誰もが信じていたんですから。彼女の研究も、やっぱり最初はあまり受け入れられなかったようです。でも、銀河の構造や、運動に関する観測や研究が進むにつれ、この「見えない物質」の存在は、天文学の世界に急速に浸透していきました。ルービン自身も、200を超える銀河で回転速度が見える物質から予測される値よりもずっと大きいことを指摘し、これがある特定の銀河だけに見られる特殊な現象ではないことを示して見せました。

どの観測結果も、見えている物質の10倍以上の見えない物質が存在することを示唆していました。「我々に見えているのはは実は宇宙を構成する物質のわずか10%でしかなく、残りの90%は電磁波で捉えることのできない謎の物質からできている」この考え方は天文学者と宇宙物理学者を仰天させました。えー!じゃあ、その見えない物質って何?じゃあ、僕らの見てるものって何なの?そんなものがあったら宇宙の重さが変わっちゃうじゃん!そしたら宇宙の年齢も変わっちゃうじゃないか!こうして、ダークマターをめぐる1970年代の天文学の狂乱の日々が始まったというわけです。

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さて、そろそろアンドロメダ大銀河の話に戻りましょうか。

今回の銀河のサイズに関する発見は、こういう銀河系の構造から宇宙の行く末まで巻き込んだ天文学の流れの先端のところのお話です。銀河のサイズが思ったより大きかったということは、単純に考えてもそれを取り巻く目にみえないハローのサイズも変わってくるかもしれないということです。これまでの銀河の形成に関する理論を見直す必要が出てくるかもしれませんし、あるいは、その動きを仔細に検討すればダークマターが何なのかにめぼしがつけられるかもしれません。

実は、ダークマターを発見したヴェラ・ルービンが最初に観測したのは、このアンドロメダ大銀河でした。アンドロメダ大銀河は、日本だと夏の終わり頃、北西の空に上がってきます。北極星からカシオペア座のWをはさんでちょうど反対側。アンドロメダ座の腰の辺りです。月がなくて、周りが十分に暗ければ、肉眼でもぼんやりにじんだように見えるはず。もし見つけられたら少し思い出してください、そのサイズは見た目よりずっと大きくて、親指と人差し指を開いたぐらいのサイズです。

...うぉ、でかっ!

(Jun. 09 2005 updated)

by isana kashiwai