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Feb. 08 2006
NASA予算案を読んでみる

NASA's FY 2007 Budget and Planning Documents(NASA)

NASAから、2007年度の予算案が出ました。「2018年までに月へ」という新しい宇宙開発の指針が打ち出され、それに向けた具体的なプロジェクトが動き始めて最初の予算案になります。つまり、この予算案を見れば、NASA、そしてアメリカの宇宙開発がどこへいこうとしているのか見えてくるかもしれません。

さて、少し長くなりますが、せっかくですから屁理屈をこねてみましょうか。まず、今回出た予算計画を簡単にまとめてみます。

NASA FY2007 Budget Request
FYScienceExploration SystemsSpace OperationsOtherTotalYear to Year Change
20065‚253.73‚050.16‚869.71‚449.516‚623.0
20075‚330.03‚978.36‚234.41‚249.616‚792.33.2%
20085‚383.13‚981.66‚680.41‚264.317‚309.43.1%
20095‚437.14‚499.86‚442.31‚235.017‚614.21.8%
20105‚491.55‚055.96‚242.91‚236.018‚026.32.3%
20115‚546.48‚775.12‚896.71‚242.218‚460.42.4%


Scienceが探査機や宇宙望遠鏡、科学衛星なんかの科学研究、Exploration Systemsが件の月へ行くための技術開発、Space OperationsがスペースシャトルとISS、Otherには航空機関連や広報・教育なんかが含まれます。単位は全て100万ドルです。
(FY2006の伸び率はハリケーンの被害に対する追加予算350Mを除外した数値で計算してあります)

これをみると、まあそれなりに妥当な予算案のような気もしますね(3.2%〜2.3%増なんていう予算が今後も毎年通ればの話ですが)。もちろん、増加しているのは新しい宇宙船の開発です。2011年にSpace Operationsが急に減って、Exploration Systemsが増えているのはシャトルが退役して余った分を開発に回しているからです。

実は開発者の立場からは、これでもぎりぎりの線かもしれません。たとえば、2007年度の40億ドル弱という金額は以前公開された技術検討資料の「必要と思われる予算」の約半分しかありません。もしかすると、この開発費は今後、徐々に膨らんでくるかもしれませんね。

さて、問題はここからです。

この新規開発の有人機と打上げ機については、公式な予算のロードマップが載っていたので、転載しましょう。



たしかに、このグラフを見ると2011年まではほぼ上の予算案に沿った形になっています。さて、2012年以降、この新宇宙船がテスト飛行を始めると再び予算が上がり始めます。シャトルはすでに退役しました、ISSは2016年まで運用しなくちゃいけません。さてどこを削ればいいんでしょうか‚それとも、この予算の上昇を支えるだけの予算増を見込むんでしょうか。

簡単にシミュレーションをしてみましょう(かなりいい加減なものなのであまり本気にしないでね)。

「予算なんかいくらでも取ってやるぜ!!!」超強気プラン
FYScienceExploration SystemsSpace OperationsOtherTotalYear to Year Change
20115‚546.48‚775.12‚896.71‚242.218‚460.42.4%
20125‚500.09‚300.02‚900.01‚250.018‚950.02.7%
20135‚500.011‚000.02‚900.01‚250.020‚650.09.0%
20145‚500.013‚000.02‚900.01‚250.022‚650.09.7%
20155‚500.014‚500.02‚900.01‚250.024‚150.06.6%
20165‚500.014‚500.02‚900.01‚250.024‚150.00.0%
20175‚500.015‚000.02‚900.01‚250.024‚650.02.1%


科学研究費を固定、ISSの運用も固定、もちろんその他の費用も固定、宇宙船の開発費は全部予算増でまかなうぜ!というプラン。はい、見てのとおり初飛行のあたりで予算の前年比がすごいことになっていますね。

まあ、もちろん前例がないわけじゃありません。NASAの設立当初は前年比100%を超えるような時期もありましたし、チャレンジャー事故の後レーガン大統領が最初の宇宙ステーション計画をぶち上げて、スターウォーズ計画を進めていた頃は前年比10%を超えていました。でも、そんなパワーが今あの国にあるでしょうか?あの頃それでも宇宙開発や戦略核兵器開発にはソ連というライバルがいました。今そこまでアメリカを宇宙開発に駆り立てる要因があるとは思えません。いくらなんでもフロンティアスピリットだけじゃお金は出ないでしょう。

しかも、忘れちゃいけないのは、この頃には言いだしっぺのブッシュ大統領はいないということです。彼の後を引き継いだ大統領がNASAにアポロ時代に匹敵するような予算を許すでしょうか。

というわけでプランB。

「絞れるところを絞ってみました ... 」しょんぼりプラン
FYScienceExploration SystemsSpace OperationsOtherTotalYear to Year Change
20115‚546.48‚775.12‚896.71‚242.218‚460.42.4%
20125‚450.09‚300.02‚900.01‚250.018‚900.02.4%
20134‚200.011‚000.02‚900.01‚250.019‚350.02.4%
20142‚670.013‚000.02‚900.01‚250.019‚820.02.4%
20151‚650.014‚500.02‚900.01‚250.020‚300.02.4%
20162‚140.014‚500.02‚900.01‚250.020‚790.02.4%
20172‚140.015‚000.02‚900.01‚250.021‚290.02.4%


えーと、ISSはもう削れないし、そのほかの予算も削れるだけ削った感じだし...というわけで科学研究費を削って前年比を2.4%に押さえたプラン。もう、笑うしかありませんね。新宇宙船が飛び始めると、科学研究のほうは新規開発はおろか既存プロジェクトの維持も風前の灯です。

もうひとつ、不安要素を一つ付け加えるなら、この資料からは「Exploration Systems」に新しい宇宙船でのミッションのための予算が含まれているかどうかよく分かりません。この予算が「開発」だけなのか、それともその後の「運用」を含んだものなのか。もし「運用」を含んでいないとすると、Space Operationsの部分の予算は再び現状のレベルに跳ね上がるはずです。そうなるとこれらのプランは完全に破綻しますね。しょんぼりプランで他の部門を削りに削ってもアポロの時を超える予算規模が必要、ましてや強気プランだとNASAの予算は300億ドル超というかなり非現実的なレベルに突入します。

*


もちろんこの二つはかなり極端なシミュレーションです。実際には、可能な限り予算を確保しながら、あちこち出っ張っているところ引っ込めつつ、計画の規模を調整しつつ、という感じになるでしょう。でも、なんにしてもこの予算計画を見る限りは、どこかにしわ寄せが来ることはまず間違いありませんし、予算のバッファはほぼ皆無です。もし政府予算をカットされたら、かなりのプロジェクトがばたばたと共倒れする可能性が高いんじゃないでしょうか。

というわけでこの予算案、素人目にはとても危険な代物に映ります。3.2%という予算が確保できればぱっと見は幸先がよさそうですが、2011年までに削りに削った予算の向こう側、この予算案の裏表紙の後ろに、すごく大きな落とし穴が待っているような気がします(まあ、こんな素人がExcelでちょこちょこ数字をいじったようなしろものを軽く吹き飛ばすようなマジックを彼らが用意していないとは限らないですけどね、っていうかそうだといいんですが...)。

もちろん、この予算案を作った人たちは気づいているはずですし、こんな素人でも気づくようなことに、アメリカ政府やアメリカと協力関係にある各国の政府がこれに気づかないとは思えません。何はともあれ、これで最初のカードは配られました。いよいよこの10年の世界の宇宙開発の行方を占うゲームが始まります。さて、かの国はどこへ行くんでしょうか?そして僕たちは?

(Feb. 08 2006 updated)

by isana kashiwai