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Nov. 13 2008
オバマ新大統領とアメリカの宇宙戦略

さて、バラック・オバマ氏が第44代アメリカ大統領に当選しました。問題山積みのアメリカの政治を引き継ぐとあって、いまからオバマ政権の動向に注目が集まっていますが、個人的に気になるのはやっぱり宇宙戦略。岐路に立つアメリカの宇宙開発がどこへいくのか?今後の世界の宇宙開発の動向を伺う上でもオバマ新大統領の采配が気になるところです。

いい機会なので、ここ最近のアメリカの宇宙戦略についてちょっとまとめておきましょう。まずはブッシュ政権の宇宙戦略から。

2001年、ジョージ・W・ブッシュ氏が最初に大統領に就任した頃、NASAは国際宇宙ステーションの予算超過をはじめとして、その無駄の多さが批判の的になっていました。その中で、ブッシュ大統領は行政管理予算局次長のショーン・オキーフ氏をNASAの長官に任命します。彼は、その前職からも分かるように技術やサイエンス畑の人間ではなく、無駄の多いNASAを立て直すために、その財務管理能力を買われてNASAに送り込まれた人物。オキーフ長官は着任早々から大幅な予算縮小とそれに伴うリストラを着々とこなし、コストカッターの異名を取ります。しかし、2003年にスペースシャトルコロンビアが事故を起こし、彼のもくろんでいた「NASAの建て直し」は予想もしなかった形で成就することになりました。

2004年1月、ブッシュ大統領はコロンビア事故後のアメリカの宇宙開発を牽引するプロジェクトとして、『2018年までに人類を再び月へ』というプランを発表します。これは、2010年までに国際宇宙ステーションを完成させ、同時にスペースシャトルを退役させる。2011年までに新しく開発する有人ロケットの試験飛行を行い、2014年までに有人テストを行う。2016年には国際宇宙ステーションを退役させ。2018年に再び有人月着陸を行う、という野心的なもの。もくろみとしては、お金ばかりかかるスペースシャトルと国際宇宙ステーションにさっさと引導を渡し、安価で信頼性の高い新しい有人機で新たな目標を目指す、という感じでしたが、いくらなんでもこのプランは楽観的すぎました。

新しいロケットと宇宙船を開発するんですから、当然開発コストがかかります。しかし、議会は事実上NASAの予算の増加をほとんど認めませんでした。つまり議会はNASAに対して「新しいロケットと宇宙船は作ってもいいよ、ただし予算はそのままでね」という答えを出したわけです。当然、足りない分は他のプロジェクトの予算を削ることになります。このあおりを食ったのが、数多の科学プロジェクト。基礎研究などの他、多数の探査機や衛星の計画が中止に追い込まれ、内外の科学コミュニティから批判の声が上がっています。

加えて、この新しいロケットの開発が難航。「エンジンの推力が足りないかも」、「予想より振動が大きくて乗組員が危険にさらされるかも」、「横風に弱くて、打ち上げのときに発射台に接触するかも」... 。内部からは「やり直したほうがいいんじゃない?」という声も聞こえてきます。当然のことながらスケジュールは伸び、現在の予定では新しい有人機の完成予定は2015年。まあ、もっと先延ばしになるでしょうね、きっと。

さて、ここで問題になるのが、スペースシャトルの退役から新しい有人機の就航までの5年間のギャップをどうするか?ということ。このまま行くと、この5年間アメリカは宇宙に人間を送り込むための手段を持たないということになります。どうやって国際宇宙ステーションを維持管理するのか?現状では、国際宇宙ステーション人間を送ることができるのはアメリカのスペースシャトルとロシアのソユーズだけ、民間による打ち上げシステムの開発も進められていますが、間に合いそうにありません。じゃあロシアにお金を払ってソユーズを借りる?

実は、そうは問屋が卸しません。ロシアがグルジアに侵攻したことで米ロ関係が悪化する中、議会では「アメリカの宇宙ステーションを維持管理するのにロシアの宇宙船に頼る」という図式に難色を示す声が大きくなっているんです。曰く「スペースシャトルを延命するためにNASAの予算を増やすべきだ」。なんかもうぐだぐだですね(予算減で次世代機の開発が遅れたのに、現行機を延命するために予算を出せってことですから)。

と、このめんどくさい状況の中で、来年の1月には言いだしっぺのブッシュ大統領は退陣、オバマ氏が後を引き継ぐことになります。前政府が後先考えずに広げたやたら大きな風呂敷をどうするか?オバマ新大統領の手腕やいかに!という感じでしょうか。

では、次にオバマ氏の宇宙開発関連の政策を見てみましょう。
ref.Advancing the Frontiers of Space Exploration(barackobama.com) ※PDF

元々、内政重視の民主党は宇宙開発にさほど積極的ではありません、オバマ氏も選挙戦が始まった頃はあまりこの点を重要視はしていなかったようです。しかし、選挙戦が後半になるにしたがって積極的な宇宙政策を打ち出してきました。
彼の掲げる宇宙戦略のモットーは、

A ROBUST AND BALANCED PROGRAM OF SPACE EXPLORATION AND SCIENTIFIC DISCOVERY
(科学的な研究と宇宙開発の両面に置いて堅牢でバランスの取れたプログラム)

というもの。堅実路線とも取れますが、まあ、何も言っていないに等しいとも言えるかもしれません。

具体的な公約の方も、基本的に現政府の方針を踏襲しつつ、議会の意見も組み入れた総花的なもの。「2020年までに人類を月へ」「とっとと次世代機を開発」「シャトル退役から次世代就航までの間はどうにかする」「シャトルの延命もありかも」「ISSの延命もありかも」「民間の力を結集」「国際協力も積極的に」という感じ。具体的にどうするのかについての言及はありません。

目新しいのは、ブッシュ政権では置かれていなかった「直属の宇宙開発関連のアドバイザリーボードの設置」というところでしょうか。民間(NASA)、国防、気象、海洋の宇宙関連機関から関係者を集めた委員会を組織するとのこと。これはなかなかいいアイディアかもしれません(議論が紛糾しそうな気もしますけどね)。でも、何で現政権にはなかったんでしょうね...

全体的に宇宙開発に対して否定的ではないものの、具体的にどうするのかということについては言及を避けている、というところでしょうか?問題点は見えてますよ、やり方はいくつかありますよ、具体的にどうするかはそのうちね、という感じ。宇宙戦略については新政権の方針を云々言うのはまだ時期尚早というところでしょうか。

といっても状況の方はどんどん変化しています。政府の方からは新政権の発足を前にさっそく勧告が出ました。
ref.Retirement of the Space Shuttle(GAO)

これは、GAO(アメリカ会計検査院)が新政権に対して提示した「解決すべき13の最優先課題」の一つ。この勧告の中でGAOは「スペースシャトルの退役を延長させることが望ましい」と結論しています。理由は先に述べた二つ ― 民間に委託している代替機の開発が間に合わないこと、国際宇宙ステーションへの人員物資の補給をロシアに頼らなければならないことです。

これで、議会、行政の両者から「スペースシャトルを延命すべし」という声が上がったということになります。とくにGAOからの勧告は財布のひもを握っている機関だけに影響力が大きいでしょう。オバマ氏も政策の中で退役延長に触れていますから、趨勢は大きく「シャトル延命」に傾いているといえそうです。

とはいえ、NASAはすでにシャトル退役に向けて大きく舵を切っていて、すでに一部の製造ラインは閉じられています。ふたたびスペースシャトル関連の製造ラインを稼働させるには、かなりのコストがかかることになります。また、先にも述べたように、承認された予算が要求額を下回ったために次世代機の開発は赤字状態で進んでいます。金銭的なコストだけ見ても、この緊縮財政の折、NASAに対する追加予算が認められるかどうかは微妙なところでしょう。

これまでの歴史を見ても、アメリカの宇宙開発は大統領が変わるたびに大きな転機を迎えてきました。オバマ氏がどういう選択をするにせよ、それはブッシュ大統領が掲げた宇宙戦略を何らかの形で読み替えることになります。その選択は今後の世界の宇宙開発の趨勢を大きく左右することになるでしょう。

(Nov. 14 2008 updated)

by isana kashiwai