2004-06-01
§ [clip] Daily Clipping
絶滅危惧種の細胞・遺伝子を保存、タイムカプセルが完成 (asahi.com)
レッドデータブックに記載された200種以上の鳥類、ほ乳類、魚類などの細胞や遺伝子を冷凍保存する施設が完成、一般公開された、というお話。
でも、もし仮に技術が進んでこれらの遺伝子から絶滅種が再生できたとして、本当に彼らを自然に帰すことが出来るんだろうか?僕は少し悲観的だ。たとえば、絶滅危機種がごく普通に繁殖できる環境全体を再生することは限りなく不可能に近いんじゃないだろうか。なにしろ、今の環境を丸ごと保存しても意味がない。今、その種が危機に瀕しているということは、もうすでにその種が生きていくのが難しい環境になっているということだ。たとえば今から50年前、100年前の環境を丸ごと再生するなんてことが出来るようになるだろうか?やっぱりちょっと、無理がある。
あるいは、首尾よく再生に成功し、彼らが繁殖できるだけの力を持ち得たとしても、その頃には彼らはすでに「外来種」になってしまっているはずだ。かつてその種が抜けた穴にはすでに他の種がそのニッチを埋めているはず。そこに再生された種を投げ込んだりすれば、再び生態系のバランスが崩れて複数の種が危機にさらされることになる。
結局、再生された彼らを待っているのは、動物園なのかもしれない。それでも、絶滅してしまうよりはいいのかな?うーん。
§ 雑
たとえば、太陽系に最も近い恒星から、光が地球に届くまでにかかる時間とほぼ同じ。
2004-06-04
§ [clip ] Daily Clipping
Puckish robots pull together: Air hockey helps joint techniques for work in space. (BBC)
宇宙で建設作業を行うロボットの開発にエアホッケー台が使われているというお話。無重力環境でロボットのテストをするにはとてもコストがかかる。実際に軌道上に上げるか、自由落下状態の飛行機を使ってほんの数十秒しか得られない。そこで、摩擦の少ないエアホッケーの台を使って無重力状態のシミュレーションをやろう、というアイディア。もちろんに時限的なモデルでしかないけれど、基礎研究には充分だし、何より安い。おぉ、頭いいなぁ。
Historic Space Launch Attempt Scheduled for June 21(Scaled Composites)
世界初の民間有人宇宙飛行は6/21、というニュース。順調にテストを重ねてきたスケールドコンポジット社のスペースシップワンが6/21に高度100kmに挑戦するとのこと。2週間以内に再飛行すればX-Prizeに一番乗りだけど、いきなりはないかな。
2004-06-16
§ Music on the net -reprise
友人とチャットで話しながら、つらつらと考える。
僕はこの件については、少し戸惑っている。個人的に、語気荒く「CCCD反対!還流防止法反対!」と叫ぶことに抵抗感がある。何かまとまったことがいえるとは思わないけれど、この戸惑いを表明しておくのは、たぶん無駄にはならないだろう。
CCCDはどうかと思うし、還流防止で輸入CDがターゲットになる(本当にそうなのか?)のも解せない。でも「搾取をむさぼるレコード会社ゆるすまじ」みたいな議論はもっと賛同できない。レコード会社は何もやっていないか?僕はそうは思わない。アーティストを発掘し、売れるかどうか分からない彼らにそれなりに宣伝費をかけて(もちろん新人にそんなに巨額な宣伝費がつくわけじゃないけれど、決して安くはないはず)、人々の目に触れさせ、CDをプレスして...。これだけでも、なかなか大変な仕事だと思う。ミリオンセラーを出せるようなアーティストが、そういう形で利益を新人アーティストに分配しているからこそ彼らがメジャーになっていく可能性もある。
楽曲がすべてネットワーク上で提供され、誰もが自由に自分の作った作品を流通させられる。一見理想的な世界に見えるけれど、本当だろうか?ユーザーから直接アーティストにお金が落ちるような仕組みがあればいい?僕はそうは思わない。想像してご覧よ、アーティストにとってはずいぶん殺伐とした世界じゃないか?たとえば、1曲100円としようか、1万回のダウンロードで100万円。これは大もうけだろうか?このお金で何人が何ヶ月暮らせる?レコーディングや配信のための費用がここから出せる?売れているアーチストならあり得ない数字じゃない。じゃあ、売れてないアーティストは?彼らが売れるためにかけなきゃいけないお金は誰が出す?
だれかが、彼らに「先行投資」をして、育てる必要がある。今の方法がいい方法なのかは分からないけれど、少なくとも今はレコード会社がその役割を果たしているはずだ。聞いたこともない音楽に触れて「あ、いいな」と思う、そういう体験の多くをレコード会社が担っている(彼らはそのためにずいぶん博打をやっている)。日本は世界でもまれに見るぐらい多くの楽曲をCDで手に入れることができる国なんだ。いや、正直悪くない仕事をしていると思うけどなあ。
でも、誰もCDの価格の中にそういう目利き料やアーティストの養育費が入っているとは思っていない。こんなことを言っている僕だってCD買うときに「ああ、この2千幾らかのお金の中に、次世代のアーチストを育てるためのお金が含まれているんだ。うんうん」なんて思わない。頭では分かっていても、結局の所「CDってやっぱり高いよ」とか思っている。このギャップはなかなか埋めがたい。
問題は、状況が変わりつつあるということだ。まず、CDが売れていない。それから合法/非合法問わず高品位の楽曲データがネット上からダウンロードできるようになりつつある。これは、レコード会社の既得権が脅かされるというだけの問題じゃない。レコード会社が持っている「アーティストの利益を再分配する」という仕組みが崩壊の危機に瀕しているということだ。これは、本当に由々しき事態だよ。
まあ、そうはいっても、この状況に対応する方法として、CCCDはスマートじゃないと思う。なにより後ろ向きだしね。他に何か上手い仕組みがあればいいんだけど、今はまだこれという方法はなさそうだ。あ、勘違いしないで欲しい、僕が言っているのはコピーコントロールの方法じゃなくて、楽曲のダウンロード販売で音楽業界全体が成り立ちうる方法のことだ。解決策は価格設定だろうか、あるいはもっと違う利益分配方法があるんだろうか。この楽曲ダウンロードの隆盛が止められないなら、何か他の方法を考える必要がある。今すぐに。
僕はCCCDには反対だ。還流防止が輸入CD規制につながるとすれば賛成するわけにはいかない。やっぱりCDは高いと思うし、もっと気軽にネットから楽曲が落とせるようになればいいと思う。でも、僕が不安なのは、自分が半ば無自覚にアーティストに向かって「パンがないのならば、ケーキを食べればいい」と言っていないかということ。僕がこのことについてどうしても強い口調になれないのは、こういう理由だ。
さて、言いっぱなしじゃなんなので、最後に思いつきを書いておくと、「ネットに常時接続していてネットラジオが聞ける携帯プレーヤーに購入ボタンがついている」というのが僕の考える理想型。
参考) Junkyard Review "Music on the net"
2004-06-17
§ [Clip] Daily Clipping
APOD: 2004 June 10 - Venus at the Edge
先日の金星の太陽面通過の超クローズアップ画像。金星の大気が輝いているのが見える。なんと言うか、SF魂を震わせる絵だなあ。
フランス在住の友人に紹介されて、見たくてみたくてしょうがなかった映画。7月17日公開。わーい。
2004-06-18
§ [book] チャールズ・ダーウィン『種の起原』岩波文庫(上 下 /amazon)
最近、進化論系の本を読みあさっていて、とりあえず始祖は何を言っているのか知りたくて読み始める。訳が典型的な学者訳でごにょごにょしているのは置いておいて、なかなか面白い。書きっぷりからすると論文というよりエッセイに近い感じ。
少し長くなるけれど、とりあえず思いつくままにメモ。
§ ダーウィンの主張
ダーウィンが言っていることを大雑把に箇条書きするとこんな感じ
・生物にはわずかながら個体差がある。
・その個体差は親から子へと受け継がれる。
・生まれた子供が全て生き残るわけではない。
・個体差には生き残るのに有利なものと、不利なものがある(はずだ)。
・平均すれば、有利な身体的特徴を持った個体が生き残る可能性が高い(はずだ)。
・だとすれば、環境に有利な身体的特徴が世代をへて蓄積する(のではないか)。
注意すべきなのは、「自然淘汰」も「適者生存」も「生存競争」も個体に対する概念だということ。淘汰や競争という言葉は「種」に対して使ってはいけない。同様に「適者生存」と「弱肉強食」はまるで違う概念。進化論に関する大半の勘違いは、ここに起因する。そもそも、『種の起原』はその名の通り、種の多様性はどうやって生まれたかを説明する本。種どうしの関係性を議論の中に持ち込んだらトートロジーになってしまう。個体と環境の関係だけで種の多様性が説明できるというのが、ダーウィン進化論のすごい所。
§ ダーウィンは進化が実際に起きているという実証をしていない
結局の所、ダーウィンは家畜の品種改良の例を挙げて、これが自然界でも起きているはずと言っているだけ。だから"Natural Selection"という用語になる。ダーウィンは、個体差があること、生物が環境に対して見事に適応していることなどについては例証しているけれど、「環境に優位な身体的特徴が蓄積される」という証拠は挙げていない。彼は同書の中で、進化は非常にゆっくりとおこるため観察はできないと主張している。ここは、創造論者にさんざんたたかれている所だけれど、実際の所どうなんや!という方はジョナサン・ワイナー『フィンチの嘴』早川文庫(amazon)をどうぞ。進化はすでに観測された事実です。
§ 「進化」を言い出したのはダーウィンが最初ではない
ダーウィンが『種の起原』を発表する以前から、長い時間をかけて生物が変化してきたとする考え方はあった。全然見た目の違う動物の間に相似があったり、明らかに退化したと思われる器官の痕跡があったり、古い地層から化石が次々と見つかったり。生物の多様性が一発で作られたと考えるより、単純な生物から複雑な生物へという変化があったと考える方が自然じゃないだろうか?こういう考え方は、決してメジャーではなかったものの、考え方としては当時の自然科学者の中に広く浸透していた。そもそもダーウィンのじいさん、エラスムス・ダーウィン(詩人、医者、哲学者、博物学者)も進化論者。自作の詩の中でも「生命は海に生まれ、次第に発達してきた」と書いている。孫のチャールズが彼の主張を知らないはずがない。
Organic life beneath the shoreless waves
Was born and nurs'd in ocean's pearly caves;
First forms minute, unseen by spheric glass,
Move on the mud, or pierce the watery mass;
These, as successive generations bloom,
New powers acquire and larger limbs assume;
Whence countless groups of vegetation spring,
And breathing realms of fin and feet and wing.
Erasmus Darwin. The Temple of Nature. 1802.
ダーウィン以前の進化論者で有名なのは、ラマルク先生(フルネームは Jean Baptiste Pierre Antoine de Monet, Chevalier de Lamarck、長いっちゅーねん)。彼は生物は最も複雑なものを頂点として、最も下等な生物まである階梯をなしていて、生物は下等なものから高等なものへと進化してきたと述べた。ただし、ラマルク先生によれば、単純なものが分岐しながら徐々に種が増えたのではなく、ただ高等なものは古く(つまり年月をへて高等なものに進化している)、単純なものは新しい種(まだ変化の途中)というだけのこと。少し考えれば分かるけれど、ラマルク先生はどうやって生物が変化してきたかを述べているだけで、どうやって種の多様性が生まれたかを説明していない。ダーウィンの『種の起原』というタイトルがいかにセンセーショナルだったのが分かるというもの。
進化の要因として、ラマルク先生が主張したのが有名な「用不用論」と「獲得形質の遺伝」。個体の器官はよく使うものが発達し、使わないものは縮小する。こうして後天的に獲得したものが受け継がれることで進化が起きる。「キリンは高い所の葉を食べようと首をのばしているうちによく使われる首が発達し、その形質が子孫に受け継がれる中でどんどん首が長くなった」という例はあまりに有名。
ダーウィンがすごかったのは、「進化(変化を伴う継承)には方向や目的はない」と喝破したこと。進化はランダムで個体の意思は関係ないし、生命には階梯なんてものはない。彼は、完全にランダムな変異に環境によってわずかな偏りが生じ、長い時間を経てその偏りが蓄積することで種の分化が起きると主張した。だから、ダーウィンはキリスト教文化から猛烈な反発を食らった。だって、生命の多様性は神様抜きで説明できるし、人間は万物の霊長なんかじゃないよ、って言っちゃったんだから。
§ ダーウィンは「進化(evolution)」という言葉を使っていない
ダーウィンが使っているのは「変化を伴う由来(descent with modification)」という言葉(っていうかdescentの訳語は「由来」じゃなくて「継承」のほうがしっくりこないか?※decentには相続の意味がある)。『種の起原』の中に「進化」という言葉は出てこない。これは当時、evolutionという言葉がホムンクルス説の「精子の中の小人が次々と世代交代していくこと」を表す言葉だったかららしい(スティーブン・J・グールド『ダーウィン以来』)。そもそも、「進歩」や「発達」というニュアンスを持つevolutionという言葉はダーウィン進化論とは全くそぐわない。むしろダーウィンは「進化は進歩じゃない、進化には方向なんかない」と主張したんだから。
ちなみに、進化論にevolutionという言葉を持ち込んだのは社会学者のハーバート・スペンサー。「適者生存(survival of the fittest)」も彼の造語。かれは社会も進化するという主張の中で、evolutionという言葉を使った。ただ、スペンサーの進化はダーウィン的な「方向のない進化」じゃなくて、どちらかといえばラマルクっぽい「社会はどんどん複雑なものになる」という考え方。
2004-06-21
10:46
たった今、15分遅れて母機のWhiteKnightにぶら下げられてSpaceShipOneがモハービ砂漠の飛行場から離陸しました。WhiteKnightは、これから1時間近くかけて、高度を15000mまで上げ、そこでSpaceShipOneを切り離します。
11:36
33,000フィートに到達。全システムが正常に動作しているとのこと。
11:55
切り離された、かな?
11:58
無事切り離しは終わり、SpaceShipOneは順調に上昇中とのこと
0:00
どうやら最大高度に達し、下降を開始したようです。きゃー!
0:05
SpaceShipOneは順調に滑空しているとのこと。チェイス機が機首部分に若干熱の影響が見られる以外は、外見は問題ないとの報告をしています。
0:10
到達高度62マイルと発表がありました。目標達成です。わー、ばんざーい!おめでとうございます!
0:15
そろそろ着陸してくるはずです。
0:15
SpaceShipOneは無事モハーベ砂漠の空港にタッチダウンしました。
まさしく、歴史的な一瞬です。
ここから始まる歴史が、きっとあるはずです。
10年後、50年後に、ここから歴史が始まったんだと、いわれる日が来るでしょう。
今日は、いい夢が見られそうです。関係者の皆さんに、心からの賞讃と、感謝を。
本当におめでとうございます。そして、ありがとう。
付記)
CNNが着陸時の画像を掲載しています。
http://edition.cnn.com/2004/TECH/space/06/21/suborbital.test/index.html
§ [clip] Daily Clipping
Scaled Composites - Tier One / SpaceShipOne Home Page
予定通りなら、本日、アメリカ東部標準時午前6時半(日本時間午後10半)、歴史的なフライトが行われます。
脳の電位で、コンピューターを制御するという話。何をいまさら。この手の商品はもうずいぶん前から市販されてます。しかも、頭にバンドを巻くだけなんていうシステムがごろごろしてるんですが、今回の話は何が新しいんだろう?
5年も前に書いたエントリだけれど、リンク先は全部生きてました。「Brain-Computer Interface」で検索かければ山ほど事例が出てきます。バッタもんも多そうですけど。
2004-06-28
こんなことやってる場合じゃないんだけどね
§ 「バーニャ」の謎
イタリアの名物料理「バーニャ・カウダ」は、オリーブオイルとニンニクとアンチョビの暖かいソース。イタリア語の「バーニャ」には「入浴・お風呂」の意味がある(バーニャ・カウダで暖かいお風呂の意)。
ロシア名物のサウナ(あの白樺の枝でばんばん叩くやつ)も「バーニャ」という。
南フランスには「パン・バーニャ」というサンドイッチがある。意味は「湿ったパン」。
ウズベキスタンやキルギスでも公衆浴場を「バーニャ」というらしい。
ブルガリアのソフィアには「バーニャ・バシ・モスク」がある。これは、オスマン帝国時代のモスクで敷地内に温泉が湧き出ており、トルコ語で風呂を意味する「バーニャ」が名前に入っているとのこと。
さて、「バーニャ」はどこから来たのか?
ここに上がっている断片的な情報から類推すると、やっぱりオスマン帝国辺りに端を発すると考えるのが順当かもしれない。とすれば、言葉そのものの起源はトルコ語にあるのかな。じゃあ、ヨーロッパでのお風呂文化の起源は?なんて考えるといろいろ面白いかもしれない。たぶんヨーロッパの風呂には、歴史とスタイルの違ういくつかの潮流があるんだろう。沐浴なんてのは古代からやっていただろうし、古代ギリシャに浴場があったのも確か、ヨーロッパには湯治の風習もあるし、サウナ(これは確かフィンランド起源、形式はバーニャに近い)なんてのもある。
「バーニャ」という言葉と「風呂」や「湿った」という意味が、歴史を追って、距離感を変えながらヨーロッパの南部であちこちに伝わり、変化していっているはず。国家の興亡や文化の伝播、歴史的なイベントとシンクロしていないはずがないから、もう少し突っ込んで調べれば、面白い文化史になるかもしれないなあ(っていうか誰かきっとやってそうだ)。ネットにも結構いろいろ情報があるんだけど、ちょっと断片的でまとまらない感じ。
えーと、気が向いたらまた調べます。