2006-06-02
§ **[clip] 2006年5月末現在の「はやぶさ」探査機の状況について(ISAS/JAXA)
はやぶさがイオンエンジンの点火テストに成功!きゃー!4台あるイオンエンジンのうち2台のテストを行い、まったく性能に問題がないことが判明。少なくともこの2台があれば地球に帰ってくることはできるそうな。
ただし、「現在、「はやぶさ」探査機は、交信と運用には問題はありませんが、いくつか検討を要する比較的大きな問題があります。その検討には、地上試験や比較的長期の飛行履歴の調査を要するため、現時点では正確な状況をお知らせすることができません」とのこと。なんだろう?
いや、それにしてもすごいミッションだよ。関係者の皆様の努力には本当に頭が下がります。
§ **[clip] 「はやぶさ」によるイトカワの科学観測成果、科学雑誌「サイエンス」が特集!(JAXA/ISAS)
最も有名なピアレビュー誌の一つ「サイエンス」がはやぶさの特集を組むよ、というお話。これはは、実質始めてはやぶさの科学的成果が発表されることになりますね。おぉおお!これは「Science-はやぶさ特集号」は是が非でも手に入れなくちゃ!
リンク先には詳しい資料が公開されています。これは必見。高度63mから撮られた解像度数10センチの超近接画像も掲載されています。すごい!それにしても、ラッコ画像がすごくかわいい。
さて、ちょっと内容をまとめておきましょうか。
§ ***

※これは、発表資料の画像を抜き出してまとめたものです。
・イトカワは、ある天体が衝突を起こした時の破片が集まってできたらしい。イトカワがラッコみたいな変な形をしているのは、小さな塊が集まってできた比較的大きな塊が2つくっついたものだから。
・イトカワには、岩に覆われたごつごつした部分と、砂利に覆われたスムーズな部分の2つがある。でも、他の小惑星で見られたようなパウダー状の堆積物はない。これはたぶんイトカワがすごく小さいから。こんなに小さな天体を間近から観測したのは始めてだから、こんな様子はこれまで誰も見たことがなかった。
・イトカワはサイズも組成もすごく普通。こういう小惑星は山のようにある。でも、僕たちは「普通の小惑星」を歴史上始めて目の当たりにした。これはとてもすごいこと。
・こういう小さな小惑星が集まって地球や火星みたいな大きな惑星ができたことを考えると、太陽系の歴史を探る上ですごく重要な成果が得られたことになる。
§ **
上に転載した写真には、指でつまめるぐらいのサイズの小石が写っています。驚くべき写真です。想像してみてください。ここに写っているのは、ただの石ころです。おそらく拾い上げても、重さも、形も、色も、さほど変わった感じはしないでしょう。宇宙空間では風化がありませんから、表面はザラザラしているかな?コンドライトで鉄の酸化がほとんどないなら色はたぶん灰色でしょうね、もしかしたら見た目は均質じゃなくて、内部に含まれている金属がきらきら光るかもしれません。
そう、ごく普通の石ころです。唯一つ、この写真が地球から3億キロはなれたところで撮影されたことを除けば。
僕はこのことが、僕たちの想像力が3億キロ彼方のたかだか数センチの石ころに届いたということが、なによりもすばらしいと思います。だって、これこそが僕たちが宇宙を目指す一番の理由なんですから。
2006-06-06
§ **[sts-121] Discovery passes launch debris review for July liftoff(SpaceFlightNow)
STS-121の断熱材落下に関するレビューが終わり、打ち上げにゴ−サインが出た、というお話。このまま行けば、予定通り米国東部夏時間(EDT)7月1日午後3時49分(日本時間2日午前4時49分)に打ち上げが行われます。
このレビューは、この間の外部燃料タンクの改修に関連して行われた風洞実験の結果を評価するもの。「断熱材の脱落が起きないとはいえないが、大きな破片が落ちることは無い」という感じみたい。なんとなく歯切れが悪いなあ。ちょっと心配。~
cf)STS-121、ロールアウト(GarbageCollection)
というわけで、少し気が早いけれど、現在の打上スケジュールでカウントダウンスクリプトをアップしました。~
STS-121 Discovery Mission Timeline : Launch Phase~
スケジュールに変更がありしだい随時更新します。
§ **[clip] Thirty Meter Telescope Passes Conceptual Design Review
アメリカとカナダの複数の大学が共同で建設を予定しているThirty Meter Telescope(TMT)のコンセプトデザインが審査を通ったよ、というお話。これは「達成すべき目標をちゃんと実現できるように望遠鏡が設計されているか」を審査するもの。実現に向かってまた一歩前進というところでしょうか?
TMTというのは名前の通り、口径30mの超巨大望遠鏡。現時点では口径10m強というのが最大だからどれだけ大きいか分かるというもの。もちろんこんな大きな一枚鏡を作れるわけがないので、直径1.2mの鏡を738枚組み合わせて作る。望遠鏡というのは口径が大きければ大きいほど光を沢山集められるから、口径が30mもあるとものすごく暗い星まで見える。もしかしたら、宇宙で最初に生まれた星たちが見えるかもしれない。
実は今、世界中で次世代望遠鏡として口径30m-100mの超巨大望遠鏡の建設を計画しています。でも、いまのところこのTNTが一番進んでいる感じ。もちろん、日本にも30m級の計画があります。
cf)Astronomy - The Hitch Hiker's Guide to Science
超巨大望遠鏡というのは、なかなか楽しみな計画ではあるんだけど、あんまり大きくなると、取り回しやメンテに時間がかかって観測時間が短くなるんじゃないかという不安がないでもない(大きいからといって、観測時間が増えるわけじゃないからね)。接続する観測機器も規模が大きくなるし、メンテナンスコストもかなりの額になるはず。天文学がビッグサイエンスになっていくのは時代の趨勢なのかもしれないけれど、それが本当にみんなをハッピーにするのかどうかは、時々立ち止まって考えて欲しい気もする。
個人的には、すばるで培ったノウハウを生かして6-10mぐらいの「すごく使いやすい大型望遠鏡」を世界のあちこちに3-4台作る、という選択肢も意外と悪くないと思うんだけど...
2006-06-12
§ **[clip] Space debris impacts on shuttle mission(NewScientist)
STS-121のスペースデブリ対策に関するお話。
前回に引き続き今度のミッションでも、フライト中にシャトルの表面のタイルのチェックが行われる。最初はISSへのドッキング直前に行われる「宙返り」。これでISSからシャトル全体を撮影して破損箇所がないかチェックする。次に、飛行2日目に機体全体をカーゴベイ内のロボットアームに取り付けられたカメラ使って着たい全体をつぶさに調べる。もちろん、これはコロンビアの事故を受けて、打ち上げ時に断熱材が衝突して傷がついていないかをチェックするもの。
さて、前回STS-114の時もこの2回のチェックは行われていたんだけれど。これに加えてSTS-121では、飛行開始から10日目に左翼を、最終日にISSから切り離した後に右翼と機首部分をチェックする。この後半2回のチェックは、微細な隕石やスペースデブリなんかに衝突してできた傷がないかをチェックするもの。実は、こういうチェックが行われるのは始めてだそうな。
記事中でも触れられているけれど、カメラの小さな視野を頼りにロボットアームを動かすのはなかなか大変そう。こういうのこそ、自動化できないのかな?
§ **[clip] More on JAXA's lunar penetrator testing from Lou Friedman(PlanetarySocietyBlog)
JAXAがLUNA-Aに乗せるペネトレーターのテストに成功、というお話。これは、惑星協会の公式Blogに掲載されていたレポート。
LUNA-Aというのは、JAXA/ISASが2004年に打ち上げを予定していた月探査機。ペネトレーターと呼ばれる金属製の槍を月面に撃ち込み、月面地下の内部組成を探ろうという計画。ただ、組立段階でスラスタの部品に不具合が出て打上が延期、そのまま打上のめどが立たないままに現在に至っている。
今回、充分な深さまでペネトレーターを打ち込むことに成功し、計測機器のデータ取得にも成功したとのこと。ただ、全ての機器が問題なく動作し、ちゃんと地中のデータが地上から拾えているかどうかは、データを解析してみないと分からないそうな。
このニュース、なぜかJAXAを始めとする日本の公式サイトにいっさい情報が掲載されていない。実験をしますよ、というアナウンスぐらいあってもいい気がするんだけど、ちゃんとデータがまとまってから発表するつもりなのかな。あるいは、リリース書いている暇もない、という感じなのか。それとも、何か大人の事情があるんだろうか(2004年に打ち上げるはずだった探査機に搭載する機器のテストを今も続けなくちゃいけない、というのがその一端なのかもしれないけれど...)?どういう理由があるにしても、打ち上げが伸びに延びて、先の予定が分からなくなっている今だからこそ、ちゃんとリアルタイムでステータスを発表したほうがいいんじゃないかな?
2006-06-15
§ **愛知教育大学附属岡崎中学校の修学旅行
なんとなく平成18年度 宇宙飛行士講演実績(JAXA)を眺めていたら、ちょっと気になる数字を見つけた。~
今年4月14日の『愛知教育大学附属岡崎中学校 修学旅行講義』の講師は毛利衛さんなんだけど、聴衆者がなんと「3人」。~
毛利さんの講義を3人で聞くとはなんと贅沢な、と思ってちょっと調べてみると...
どうやら、この中学校では数人のグループを組んで、ある一つのテーマについて時間をかけて調べ、その総仕上げとして関連分野の専門家に会いに行って話を聞く、ということをやっているみたい。で、この取材旅行を「修学旅行」に代えているんだって。プロジェクトは、ほぼ100%子どもたちだけで進められ、もちろん「修学旅行」のアポイントメントも彼ら自身が行うそうな。
これはすばらしい!うらやましいなあ。こういう修学旅行をしてみたかったよ。
この学校、他にもなかなか面白い取り組みを色々やっているみたい。~
ref. 愛知教育大学附属岡崎中学校公式サイト~
ref. 文化創造 -学びのネットワークを築く子ども- 研究のあゆみ4 (PDF)
2006-06-19
§ **[sts121] Shuttle launch date set despite safety objections(SpaceFlightNow)
シャトルの打上が正式に7月1日15時48分(日本時間2日午前4時48分)に決定した、というお話。ただし、外部燃料タンクの断熱材の脱落の可能性についてはまだかなり議論が分かれているようです。
これまでの経緯/懸念事項は下記の記事を参照してください。~
ref. STS-121、ロールアウト(Garbage Collection)
今回のフライトで使用される外部燃料タンクからは、前回のフライトで断熱材の落下が確認された「PAL Lamp」と呼ばれる部分が取り除かれていますが、同様に断熱材の落下の危険性が指摘されている「Ice Frost Lamp」はそのまま残されています。
左が前回のフライト、右が今回のフライト。PAL Lampがなくなっているのが分かると思います。
PAL Lamp(Protuberance Air-Load Lamp)というのは、タンクの上の空気の流れを整え、外部燃料タンクの外側を走っているパイプ類を保護するためのもの。Ice Frost Lampというのは、このパイプとタンク本体を接合するブラケットに氷が付着するのを防ぐためのものです。
この間、Ice Frost Lampへの対策が終るまではフライトを凍結すべきだという意見と、このまま打上を行うべきだという意見が対立していました。結局、最終的な投票が行われた結果、このまま打ち上げることに決まったようです。ただし、Ice Frost Lampの改良は今後の打上を見越して続けられるとのこと。
普通に考えれば、PAL Lampが取り除かれたことでIce Frost Lampへの負荷が上がっていますから、断熱材の落下の可能性は増しているはずです。もちろん、風洞実験などで安全性の確認は行われていますが、本番での打上とは振動や熱などの点でかなり条件が違います(まあ、これは見方を変えれば打ち上げてみないと分からないこともある、ということでもあるんですが)。実際、Ice Frost Lampは安全性の評価では「probable/catastrophic」というカテゴリに入っています。これは「致命的な事故が起きる可能性がある」という評価ですから、本来ならば打ち上げは中止されるべき内容です。
今回NASAが打ち上げに踏み切ったのは、「乗務員の安全性は確保されている」と判断したからのようです。万が一再び断熱材の脱落がおきて機体が破損したとしても即座に乗員の命が危険にさらされる訳ではない。この破損が問題になるのは宇宙から帰ってくるときだとすれば、軌道上で修理するか国際宇宙ステーションに避難してバックアップのシャトルが上がってくるのを待てばいい。というわけです。
コロンビア事故の直接の原因であり、その後に改良したはずの燃料タンクのトラブル、ということでNASAの内部がナーバスになっているのも事実でしょうし(特に重大な事故が起きた後は、責任回避のために慎重論が優勢になりますからね)、いっぽうでNASAには2010年のシャトル退役に向けてスケジュール的に延期したくないという事情もあります。記事中でも指摘されているように、100%の安全を求めていたらいつまでたっても飛ばせないよ、というのが正直なところでしょうね。
ここでこの判断の是非を問うのは止めておきましょう。「Ice Frost Lampの危険性は、軌道上での修理、ISSへの避難というオプションでカバーしている」この天秤が本当に均衡しているのかどうかは、外からでは判断できません。NASAの上層部が技術的な観点から冷静な判断を下してくれたんだといいんですが...
§ **補足
上の記事で、曖昧に結論を避けたのには理由があります。少し言い訳をしておいた方がいいかもしれません。
この記事から「NASAはまた安全を軽視してスケジュールを優先させている、事故から何を学んだんだ!」という論調に持っていくのは簡単です。逆に、「人命を再優先させた上で、技術的課題に柔軟に対応できるとは、さすがNASAはリスクコントロールがうまい」と書くこともできます。どちらかに組するのはあまり得策とは思えません。
打上反対派から見れば打上推進派は「安全を軽視している」ということになりますし、打上推進派から見れば打上反対派は「責任逃れのために視野が狭くなっている」と見えるでしょう。どちらに妥当性があるのかは、内部の人間でも判断は難しいでしょうし、外にいる我々にはまず不可能です。もちろん、マスコミは「面白い方」をとりますから、世間の風潮は「NASAが再び安全を軽視」に傾くかもしれませんね。
でも、そんなことよりも、むしろ一番心配なのは議論がIce Frost Lampの安全性だけに集中していることです。もし、断熱材の脱落でシャトルに破損が生じるとしたら、それは本当に耐熱システムに傷がつく程度で済むのか(メインエンジンや姿勢制御システムを壊したりしないか)?とか。直すっていっても、今回のフライトでもその練習をするはずの技術じゃないの?まだ修理したものを大気圏に突入させてみたわけじゃないよね、とか。代替機を飛ばすといっても、どれくらい時間がかかって、どれくらいのリスクが生じるの?とか。っていうかそうなったらディスカバリーは廃棄?じゃあISSは完成しないよね、とか。考え始めればファクターはいくらでも増えていきます。
どこまでNASAは想定しているんでしょうか?上の記事で「Ice Frost Lampの危険性」と「修理・避難のオプション」を天秤にかけたのはこういうことです。前者の議論はひたすらされていますが、後者の議論がまるで見えてきません。前者の担保として後者を持ち出すなら、ちゃんとその現実性が充分に議論されていなくちゃダメです。本当なら「Ice Frost Lampの危険性をカバーできるほど、修理・救出のオプションは現実的なのか?」という議論がなされてしかるべきです。でも、残念なことにその問いも、その答えも聞こえてきません。
これまで書かれた記事やNASAからの発表だけでは、この判断の是非を問うことができないというのは、こういう理由です。
本当に信じていいんですか?グリフィンさん。
2006-06-21
§ **[prog] Somewhere,rightnow... [mobile edition]
ふと思い立って、以前作ったものからJavaScriptを外してみました。~
これで、いつでもどこでも国際宇宙ステーションの現在位置が分かります。~
ってそんなの分かってどうするんだろう?
動きません。絵も出ません。でも、想像してみてください。彼らは今あそこにいます。
ref. SatTrack Series~
Somewhere, right now... (ISSの現在位置をテキストで表示。JavaScriptで自動更新)~
Somewhere, right now... [long edition] (上のより文章がちょっと長い)~
GoogleSatTrack2 (ISSの現在位置をGoogleMaps上に表示)
2006-06-27
§ **[clip] Lab tuned to gravity's 'ripples'(BBC)
ドイツとイギリスが共同で設置した重力波検出器「GEO600」が定常観測に入った、というお話。これまでは数時間・数十時間という単位で動かしての、テスト段階だったけれど。これで本格的に重力波観測所として可動を開始。
GEO600はレーザー干渉計と呼ばれるタイプの重力波検出器。原理をすごく簡単に説明するとこんな感じ。一本のレーザーをプリズムで互いに直角になるように二つに分けて、それぞれを同じ長さのながーい光路で往復させて、また一つに重ねてあげる。そうすると、行路の長さが変われば、光の位相がずれて干渉縞に変化が起きる。まあ、単純といえば単純な仕掛け。でも、精度が半端じゃない。彼らが探そうとしているゆがみは、地球と月の間ぐらいの距離で原子核一つ分ぐらいなのだ。
何しろ物の長さや性質は温度がほんの少しだけ変わるだけで変わってしまうし、地面だって常にゆれている。レーザーの光そのものにもノイズも馬鹿にならない。機械は冷やさなくちゃいけないし、振動を抑えるためにすごく精密なダンパーの上に載せなくちゃいけない。そして、ひたすら機器のノイズ源を取り除くべく日夜努力することになる。こりゃ大変だよ。
そういえば、重力波検出器を地震計の代わりに使って、地球のマントル層に放り込んだプローブと「地面の振動」を使って通信しよう!なんていっていた人がいましたね。
ref.核爆弾と10万トンの溶鉄、重力波検出器(JunkyardReview)
§ **[clip] Hubble Main Camera Experiences Power Problem(SpaceDaily)
ハッブルのメインカメラが「また」壊れたよ、というお話。前回も直ったから、今回も地上から直せるかも、ということらしい。スペースシャトルで直す計画はあるけれど、2010年のシャトル退役までぎりぎりのスケジュールだから、いつフライトがキャンセルされてもおかしくない。まあ、衛星としてはとっくに寿命が来ていてもおかしくないものだから、そろそろ新しいのを上げてもいい頃なんだけどね。JWSTはまだ先だし...
そういえば、新規開発したり出かけてって直すより、ハッブルの予備機を改良して打ち上げるほうが早いよ!という計画があったっけ。委員会には日本の国立天文台からも研究者が参加している。
§ **[clip] New Scientist SPACE - Breaking News - Noisy ISS may have damaged astronauts’ hearing
ISSはすごくうるさくて、宇宙飛行士の健康を害するかもよ、というお話。ワークエリアで62から69dB、就寝用のエリアで55〜60dBのノイズがあるそうな(これでも減らしたんだって)。静かなオフィス、図書館が50dBぐらい。普通の話し声、銀行の中が60dB。掃除機の音、車の中が70dB。絶えられないほどではないけれど、休まる暇がないとすれば、あまり快適な環境とはいえないなあ。なんにしても、ISSへ行くなら耳栓を忘れないようにしないと。
残念ながらISSにいったことがないので、本当はどんな感じかは分からないけれど、ある程度想像はできる。おそらく、ありとあらゆる機械の中で冷却用のファンが回り、かなり強い空調ファンも回っているはず。それに加えて、水やガスのポンプや、姿勢を安定させるジャイロなどの常時動いている駆動部分もある。
でも、このファンを止めるわけには行かない。たとえば、無重力では対流が起こらない。暖められた空気は強制的に循環させない限り、熱源の周りにいつまでも留まる。冷却用のファンを止めてしまったら、あっという間にありとあらゆる機械が熱で動かなくなるんじゃないかな。
実は、僕が宇宙飛行士に会う機会があったら聞いてみたいのは、この「音」話と、もう一つは「におい」の話なのだ。こればっかりは行った人じゃないと分からないからね。
2006-06-28
§ **スペースシャトルは本当に欠陥品なのか?
本タイトルの記事にはコストの計算に誤りがあったため、当該部分を削除、改題しました。お騒がせしました。なお、参考までに下記に修正した数字を掲載しておきます。
参考)~
ソユーズの打上げコスト(3人):6500万ドル=75億円*1~
アリアンVの打上げコスト(18t):180〜216億円~
プロトンKの打上げコスト(21t):108〜118億円~
H2Aの打上げコスト(10t):75〜85億円~
スペースシャトルの打上げコスト(7人、28.8t):800億円 ※予備機含む~
(コロンビア事故以前の打上げコスト:500億円※予備機含まず)
ソユーズとカーゴロケットで、スペースシャトルと同じことをしようとすると、~
ソユーズ3台 + 予備機3台 = 375億円※予備機を2台分として計算~
カーゴロケット2台〜3台 = 約200〜300億円※機種、打上げ重量に依存~
合計:575〜675億円~
*1 ref. Soyuz Spacecraft To Cost NASA 65 Million (PhysOrg.com) 他
§ **シャトルもISSもいない宇宙
最近、どうもスペースシャトルの旗色が悪い。「高くて、無駄が多くて、安全性に問題がある失敗作」これが今のシャトルへの評価だ。なにしろ、NASA自身がそういっているんだから、これはちょっと否定のしようがない。でも、アポロプロジェクトの終了と共に生まれ、夢の次世代機としてシャトルの初打上げに心躍らせ、2回の事故に胸を痛めてきた「スペースシャトルファン」としては、これはちょっと寂しい。30年近く、100回を超えるミッションで使われてきた機体を、欠陥品のひとことで切り捨てていいものだろうか?いくら何でもそれはもったいないんじゃないかな。
確かに、シャトルは欠陥機といってもいいすぎではないかもしれない。でも一方で「あんなにお金ばっかりかかって危険な代物、無かったほうがよかった」という言葉にはちょっと頭を傾げてしまう。もしスペースシャトルがなかったら世界の宇宙開発はもっとうまくいっていたはずだ、という仮定は楽しいけれど意味がない。もちろんその可能性はあるけれど、でも同じくらいもっと寂しいものになっていた可能性だってある。
スペースシャトルは、7人の宇宙飛行士と、28tものペイロードを同時に打ち上げられて、軌道上での実験や組立などのプラットフォームとしての役割も果たす。今のところこんな打上げ機は他にない。この能力を他の打上げ機で代替するのは結構大変だ。NASAの次世代機やロシアのKliper、まだ見ぬ「日本独自の有人宇宙船」がこの能力を持てるとは限らない。そして、これらの宇宙船が本当に飛び始めるころには、スペースシャトルは既に退役し、ISSも軌道にない。
いまさら、シャトル不要論に異論はない。もう十分すぎるほどに使ったし、そろそろ新しいのを作ってもいい頃だ。でも、僕が聞きたいのはその先なのだ。僕はシャトルとISSは、それでもそれなりの実績を残したプロジェクトだったと思う。本来なら、その評価をきっちりした上で「シャトルとISS抜きの有人宇宙開発」という画を描かなくちゃいけないはずだ。でも、アメリカは「月へ行くぜ」としかいわない。本当に他のことは何もしないつもりなのか?そしてJAXAもESAもロシアもISSがあることを前提とした計画しか発表していない。
シャトルが退役するのは2010年、ISSの退役は2016年、もうさほど時間は残っていない。僕たちは本当にその準備ができているんだろうか?僕はちょっと不安だ。
2006-06-29
§ **STS-121カウントダウン開始
STS-121の打上げまで後3日を切り、ケネディ宇宙センターではカウントダウンが始まりました。さあ、いよいよです。打上げは現地時間の7月1日15時49分、日本時間では翌2日の午前4時49分の予定です。土曜日は夜更かし?それとも日曜日に早起きでしょうか?なんにしても週末なのはありがたいですね。~
ref. NASA - Space Shuttle~
ref. STS-121 Discovery Mission Timeline : Launch Phase~
※現在日本語解説を鋭意製作中。間に合うかな?
§ **少し心配なこと
今回、NASAは外部燃料タンクから断熱材が剥離する危険性を認め、その上で乗務員の安全が保証されているから打上げを決行する、という判断を下しました。もし、ほんとうに断熱材が剥離し、シャトルを傷つけたとしたら、何が起こるんでしょうか?
NASAは断熱材の衝突が起きた場合「損傷が軽微なら修理ができる」「いざとなったらISSに避難して救援機を待てばいい」という説明をしています。でも軌道上でシャトルの機体を修理する技術はまだ実証さえ済んでいないテスト中のものです。破損の程度にもよりますが、ある大きさ以上の傷なら直すより避難する方が安全、という判断が下される可能性は高いでしょう。
さて、救援機には最低でも2人、パイロットとコマンダーが乗ることになります。シャトルの定員は7人。STS-121のクルーのうち2人はISSに残ることになります。彼らを迎えに行くためには、9月に予定されているソユーズTMA-9を救出用に転用することになります(そうなるとDice-KのISS滞在は延期/中止になりますね)。もちろん、NASAとロシアの間でそういう契約が済んでいれば/できるならの話ですが。
さて、軌道上に残されたディスカバリーはどうするんでしょうか?無人で大気圏突入-着陸することも技術的にはできなくはないのかもしれませんが、僕がフライトディレクターなら、また空中分解するかもしれない機体を危険を冒して着陸させるより、海に落として廃棄したほうがいいという判断を下すでしょうね。人口密集地に破片が落ちたりしたら大事ですから。
グリフィン長官は「もう一機失われたら、もうシャトルの打上げはやらない」と宣言しています。というわけで、救援ミッションを最後にシャトル計画は打ち切り。ISSは未完成のままで終わります。
コロンビア事故でシャトルの打上げが途絶えた時、ISSはかなり危機的な状況に立たされました。ロシアのプログレスからの補給物資だけではISSを維持するのに充分とはいえなかったからです。しばらくISSではクルーの避難が必要かもしれない、というぎりぎりの状態が続きました。でも、まだあの時はシャトルのフライトが再開するという見通しがあったんです。残念ながら、今回はその可能性はありません。そうなったらアメリカが完成のめどの立たないISSを維持し続けるという選択をするでしょうか?僕がNASAの長官なら「ISSは廃棄。シャトルの分とあわせて余った予算を次世代機に投入して一刻も早く宇宙に帰るのだ」と宣言します*1。というわけでISSも打ち切りです。
ESAのATVはソユーズやKleperとドッキングできるのでまだ使い道があるかもしれません。ドッキングする先がないJAXAのHTVはおそらく中止されるでしょう(それともKliper計画に参加表明をして、ドッキングポートをロシア規格に換装するという手が使えるかな?)。
なんだか書いていて陰鬱な気分になってきたので、これぐらいで止めておきます。まあ、99%杞憂でしょう。でも、こうやって考えると「断熱材が落ちても大丈夫」というのは、意外とリスキーな選択なのかもしれません。
ミッションの成功を、心から祈ります。
*1 これ、NASAにはかなり都合のいいシナリオだ
§ **追記
という心配をしていたら、どうやら今回のフライトで従来クルーがやっていた着陸に関する一連の操作を地上から行うための機材を積み込むとのこと。ということは、やっぱりこれまでできなかったのか。~
Shuttle Discovery to Carry New Repair, Landing Tools(Space.com)~
そして、緊急着陸地はホワイトサンズミサイル試験場(GoogleMaps)。確かにここなら陸地の上を飛ぶのは最低限で済みますからね。そういえばSTS-3はここに着陸しています。
> ブロガー(志望) [お邪魔します。 電波望遠鏡は既に「一つの大きな望遠鏡を作る」のではな く「複数の望遠鏡から得られたデータを重ね合わ..]
> isana [>光学望遠鏡でも同じ事ができれば流れは変るのでしょうが そうですね。実用的な光学干渉計ができれば、ずいぶん違ってくる..]