2009-09-01
§ [clip] Station Fire Threatens Mount Wilson(Mount Wilson Observatory)
26日から続いているカルフォルニア州ロサンゼルス近郊で起きた山火事により、ウィルソン山天文台が焼失の危機にさらされている、とのこと。30日の夕方頃から火の手が施設付近まで迫り、職員は退去。地上・空中の両方から消火活動が続けられています。~
ref.Mt. Wilson 150-Foot Solar Tower Current Towercam Image ~
※ウィルソン山天文台に設置されたWebCam(アクセスの集中により非常につながりにくくなっています)。~
※画面に映っているのはテレビ/ラジオ/携帯電話などの中継用アンテナ群です。
ウィルソン山天文台は、エドウィン・ハッブルがそれまで星雲だと思われていた天体の一部が我々の銀河系の外にあることを証明し、また遠方の銀河の赤方偏移を観測して宇宙が膨張している証拠を掴んだ場所。初代天文台長であるジョージ・エレリー・ヘールが、パロマー山に200インチ望遠鏡を作る前に、ここに60インチ望遠鏡を設置したことでも有名です。近代天文学の礎を作った歴史的な天文台といえるでしょう。
どうか無事でありますように...
§ 10:00 JST
施設の北方と南西の2方向から火の手が迫っているため、消火作業員は防火ラインを築いた上で現場から脱出。引き続き空中からの消化剤の散布を行っている模様。現状では、山火事が付近を通過するのを待つしかないという状況のようです。~
天文台では、山麓で一部の電力ラインが切れバックアップ用の電力は途絶えているものの、メインの電源はまだ生きているとのこと。天文台のWebサーバは山頂の施設内に置かれているのでWebサイトとWebCamが生きているということは、まだ山頂の施設に被害が及んでいないということを意味します。~
ref. On Mt. Wilson, 'right now the fire is boss' | L.A. Now | Los Angeles Times
§ 現地時間21時20分頃のWebCamの画像
カメラは西を向いているので、山火事は画面左斜め前方および右側から迫っていることになります。左側手前と正面の明るいオレンジ色の光は通信施設の照明。左手奥と右側で煙が赤く照らされているのはおそらく山火事の炎によるものでしょう(すでに日没から2時間が経過しているので夕焼けではありません)。
§ 現地時間22時30分頃のWebCamの画像

画面全体が煙に覆われています。右奥にかすかに炎が見えます。
当初は火が頂上付近を通過すると見られていましたが、現状では火の勢いが若干弱まり山の周囲を迂回してくれるかもしれない、とのこと。これはGood News!~
§ 現地時間23時30分- 01時30分 ※クリックで拡大
§ 現地時間02時30分- 05時30分 ※クリックで拡大
2009-09-02
§ ウィルソン山天文台 山火事続報
昨日のエントリの続報です。日本時間12時現在、山火事は頂上施設にはまだ延焼していないようです。山火事本体は、現地時間午後3時の時点で、施設の北1.5マイル(2.4km)、西3/4マイル(1.2km)のところまできているとのこと。現地には再び消防隊員が入り消火作業に当っています。また空中からの消火活動も頻繁に行われているようです。~ ref. Pitched battle underway to save Mt. Wilson from fire as officials cite progress elsewhere | L.A. Now | Los Angeles Times
*1 山火事本体が来る前に、燃えやすいものを先にわざと燃やしてしまうこと
2009-09-04
§ ウィルソン山天文台はとりあえず危機的状況からは脱した模様
続報です。どうやら、ウィルソン山天文台周辺の山火事はほぼ沈静化したようです。わーい!まだ完全に安全が確認されたという訳ではありませんが、各メディアは「危機的な状況は脱した」と報じています。すでに山頂には天文台のスタッフが入り、状況の確認や復帰作業などを行っているとのこと。とりあえずは一安心、という感じでしょうか。~
ref. Firefighters wage 5-day battle to save Mt. Wilson Observatory (LA Times)~
ref. Mount Wilson Observatory ※URLが変わっています。
ただし、天文台の施設内にダストや灰が入ってしまっているために復旧には時間がかかるかもしれない、とのこと。100年前に作られた望遠鏡とはいえ、最新の観測機材が接続されていて、まだまだ現役で使われています。当然ながら、観測の順番待ちをしていた天文学者にとってもこの火事は青天の霹靂。観測スケジュールの組み直しも必要になります。天文台のスタッフや研究者にとってはこれからがなかなか大変。とはいえ、天文台が燃えてしまえばそれどころじゃない訳ですから、ここは素直に喜ぶところですね。よかった〜!~
ref. Mt. Wilson Observatory escapes serious damage (LA Times)
(追記:2009.09.05)~
Web Camが復活しています。~
2009-09-07
§ 『Thirty Meter Telescope』の建設地が、ハワイマウナケア山頂に内定
アメリカとカナダの大学連合が中心となって進めている口径30mの超巨大可視光・赤外望遠鏡『Thirty Meter Telescope(TMT)』の建設地が、ハワイマウナケア山頂に内定した、とのこと。おぉ!マウナケアといえば、日本の口径8mの望遠鏡『すばる』を始めとして各国の巨大望遠鏡群が多数設置されている場所。この間チリのセロ・アルマソネスとどちらにするかで協議が続けられてきましたが。結局マウナケアに決まったようです。今のところ、2010年に着工、2017年にファーストライト*1、2018年に本稼動を予定しているとのこと。~
ref. Thirty Meter Telescope Selects Mauna Kea~
ref. NAOJ ELT projelct : TMT建設地はマウナケアに (TMT web news 和訳版)※上記記事の和訳~
ref. ハワイの超巨大望遠鏡、すばるとタッグ 日本も建設参加(asahi.com) ※おそらく1週間程度で消えます
これでTMT計画も大きく前進、といいいたいところですが、まだまだやることは山済みです。予算や技術的な課題はもちろんですが、一番大きいのは地元との協力関係を築くことでしょうか。このニュースリリースを読むと、まだ建設予定地が決まっただけで、地元の建設許可が下りたわけではなさそうです。
マウナケアは地元の人々にとっては、神々のつかさどる神域。現在の大型望遠鏡群を建設することについても大きな反対がありましたし、利用の仕方についても地元の自治体との取り決めがあります(たとえば、建てられる建物の数が決まっていたりします)。また、周辺の生態系への影響や環境汚染を指摘する声もあります。
現状ですら反対意見があるところに、さらに巨大な望遠鏡を作るということになれば、大きな反発が起きることは必須です。新しく建てるTMTがこうした状況に配慮するのはもちろん、既存の望遠鏡の運用体制も見直した上で、地元の人々の理解を得る、というのが順当なところでしょうが... これはなかなか難しそう。
実は日本も前々からこの計画への参加表明をしていましたが、『すばる』が設置されているマウナケアに内定したことで、日本のプロジェクト参加もさらに具体化しそうです。
口径が30mもあればこれまで見えなかったものが見えてくるはず。とはいえ、闇雲に空に望遠鏡を向けても面白いものが見られるとは限りません。限られた観測時間の中で効率よく観測を行うためには予備調査が必要になります。もしTMTがマウナケアに作られれば、視野の広いすばる望遠鏡はこの予備観測での活躍が期待できます。もし逆に、TMTの建設が南米に決まっていたら、日本は南半球に大型の可視光望遠鏡を持っていませんから、こういう協力の仕方はできなかったかもしれません。というわけで、これは日本にとってもグッドニュース。
TMT本体の建設計画への参加も、先方との協議も含め着々と進められているようですが、確かまだ具体的な予算がついていないはず。日本の参加についてもこれから一山二山ありそうです。
さて、個人的には、日本のTMTプロジェクトへの参加を応援したい反面、大きくコミットすることについてはちょっと不安もあります。それは、ただでさえ少ない日本の天文学関連予算がこのプロジェクトに食われてしまわないか、ということ。
口径が大きくなれば望遠鏡だけでなく、接続する観測機器も巨大なものになります。開発費やメンテナンスにかなりの予算と時間を必要とするでしょう。とはいえ国際共同プロジェクトですから、見返りに得られる観測時間は限られています。それが何にも代えがたい観測時間であるのは重々承知していますが、それを享受できるのはごく一部の研究者だけです。
また、上にも書いたように、30mができたら8mのすばるが要らなくなるわけではなく、これまで以上に活躍の場が広がるはずです。本来ならば、来るべき30m級の時代に備えて、人員や機材が強化されるのが理想でしょう。逆に、一番怖いのはTMTに予算が食われて既存施設の増強や、メンテナンスなどに予算が回らなくなることです。
要するに、ピークだけやたら高くなって裾野がやせ細る、といういびつな山ができやしないか、という懸念です(まあどんな巨大プロジェクトにもついて回る懸念ですが)。TMTへのアクセスは得られたけれど、あとにはぺんぺん草も生えない、というのでは本末転倒でしょう。だからといって、指をくわえてみているわけにいかないのも事実。なかなか悩ましいところです。
一天文ファンとしてはTMT計画に参加することで、日本の天文学がさらに豊かになってほしいのですが... 。
(追記)~
これまでの経緯は、以前まとめた以下の文書をどうぞ(相変わらず同じことを書いてますねえ)。~
ref.Garbage Collection(2007-03-14)
*1 初めて望遠鏡に天体の光を入れて画像を出力すること
2009-09-10
§ 本日深夜から明日の朝にかけて、宇宙開発関連のイベントが続きます。
§ H-IIB F1/HTV打ち上げ
日本時間9月11日午前2時4分(10日深夜)、種子島宇宙センターより国際宇宙ステーション補給機(HTV)を搭載したH2Bの打ち上げが行われます。~
ref. JAXA|HTV/H-IIB特設サイト~
ref. JAXA|ライブ中継〜SPACE@NAVI-Kibo SPECIAL LIVE~
ref. H2BF1 / HTV 打ち上げカウントダウン※カウントダウンスクリプト
今回打ち上げられる宇宙ステーション補給機(HTV)は日本としては初めての国際宇宙ステーションへの補給機です。無人の補給機としてはロシアのプログレス、欧州連合のATVに続き4番目。約6tの物資をISSに運ぶことができます。与圧された貨物室と真空の暴露部の2つの貨物モジュールを持っていて、前者はISS内部に運び込む機材を、後者はISSの外側に設置する機材を搭載します。
プログレスやATVなどの他の無人補給機が直接ハッチにドッキングするのに対して、HTVは国際宇宙ステーションとランデブーし、ステーション側のロボットアームで掴んでドッキングさせる、という方法を使います。この方法により、自動ドッキング用の装置を備えていないシャトルと同じ大型のハッチに接続することができます。これは、シャトルでしか運べなかった大型の機材を無人補給機で打ち上げられるということを意味します*1。2010年のシャトルの退役以後、これらの機材をISSに運べるのはHTVだけになります。
また、今回打ち上げに使われるH2Bは、これまでの主力機H2Aの第1段のエンジンを1機から2機に増やし、機体の直径を大きくし、個体燃料ロケットブースター(SRB)を4機接続した新設計のロケット。こちらも今回が初の打ち上げです。H2Aの静止軌道への打ち上げ能力が4t〜6tだったのに対し、H2Bは8t。衛星を収納するフェアリングも大型化され大幅に輸送能力が増強されています。HTVの打ち上げを主目的として作られましたが、4tクラスの静止衛星を2機同時に打ち上げられるため、商業的にも期待されています。
(追記)~
打ち上げ成功! H2Bは当初の予定通り、11日午前2時1分46秒に種子島宇宙センターから無事打ち上げられ、HTVは所定の軌道に乗ったとのこと。おめでとうございます!!
国際宇宙ステーションへの到着は約1週間後、日本時間9月16日午後の予定です。 ~
§ STS-128 Discovery 帰還
さて、続いて。アメリカ東部夏時間10日午後9時8分、日本時間11日午前8時5分、国際宇宙ステーションへの14日間のミッションを終え、STS-128が地球に帰還します。~
ref. STS-128 Discovery Mission Timeline : Landing
今日のチャンスは2回、初日のトライということで両方ともフロリダのケネディ宇宙センター(KSC)への着陸です。天候はにわか雨や雷雲の発生が予想されており、あまり芳しくありません。
今日の着陸予定は以下の通りです(日本時間)。
【1st attempt to KSC on rev202】~
06:39 GO/NO GO 判断~
06:59 軌道離脱噴射開始~
08:05 KSC着陸
【2nd attempt to KSC on rev249】~
08:16 GO/NO GO 判断~
08:36 軌道離脱噴射開始~
09:42 KSC着陸
(追記)~
帰還延期! STS-128 Discoveryの帰還は、ケネディ宇宙センターの天候が回復しなかったため、約24時間延期されました。明日の着陸予定は、ケネディ宇宙センターとエドワーズ空軍基地の2箇所、時間は以下の通りです(日本時間)。
【1st attempt to KSC on rev217】~
05:45 軌道離脱噴射開始~
06:48 ケネディ宇宙センター着陸
【2nd attempt to KSC on rev218】~
07:21 軌道離脱噴射開始~
08:23 ケネディ宇宙センター着陸
【1st attempt to EDW on rev219】~
08:50 軌道離脱噴射開始~
09:53 エドワーズ空軍基地着陸
【2nd attempt to EDW on rev220】~
10:26 軌道離脱噴射開始~
11:28 エドワーズ空軍基地着陸
2009-09-11
§ GoogleSatTrack - HTV & International Space Station
ref. GoogleSatTrack - HTV & International Space Station
GoogleSatTrackにHTVを追加しました。たびたび軌道修正が行われるので、実際の位置とずれていることがあるかもしれません*1。~
ref.H2BF1 / HTV Launch Countdown ※今後の軌道修正のスケジュールが入っています。
*1 ISSやSTSみたいにNASA-TVでテレメトリを写してくれるとあってるかどうか分かるんですが...
2009-09-12
§ STS-128 Discovery 帰還再挑戦
昨日、天候不順により帰還が一日延期されていたSTS-128 Discoveryですが、アメリカ東部夏時間11日夕方、日本時間12日午前中に2度目のトライが行われます。~
ref. STS-128 Discovery Mission Timeline : Landing
本日は2日目ということでフロリダのケネディ宇宙センターだけではなく、カリフォルニアのエドワーズ空軍基地も着陸候補に入っています。天候はケネディ宇宙センターは昨日とあまり変わらず、にわか雨や雷雲の発生が予想されています。一方のエドワーズ空軍基地は晴れており申し分ない天気のようです*1
今日の着陸予定は以下の通りです(日本時間)。
【1st attempt to EDW on rev219】~
08:27 GO/NO GO 判断~
08:50 軌道離脱噴射開始~
09:53 エドワーズ空軍基地着陸
(追記)悪天候のためケネディ宇宙センターへの着陸は見送られました。
(追記)第1回目のエドワーズ空軍基地への着陸にGOが出ました。
実況はTwitterでやっています。ref. KASHIWAI, Isana (geckoseyes) on Twitter
*1 ただし、カリフォルニアに降りるとケネディ宇宙センターにオービターを輸送する必要が出てきます。
> ブロガー(志望) [お邪魔します。 自分としては岡山県浅口市に建設予定の3.5m分割鏡の進み 具合に興味があります(TMTはあくまで"..]