Garbage Collection


2004-04-01

日本でも紹介され始めましたね。でも、「げっぷ」じゃないでしょう、「げっぷ」じゃ。

地球上では、メタンは動物のげっぷなど生命体による活動でも発生するため、同氏は「火星で生命活動が営まれている可能性も捨てきれない」としている。

エイプリルフールのジョークかな?とはいえ、げっぷと火星の生命の間に全く関係がないかというと、そうでもありません。ちょっと面白いので書いておきます。


火星には酸素がほとんどありませんから、生命が存在するとしても嫌気性(酸素を必要としない)微生物だと考えられています。地球では地中や火山などの「極限環境」でも嫌気性微生物があちこちで発見されており、火星をはじめとする地球外の惑星でも条件さえ整えば生命維持が可能だといわれています。


嫌気性微生物の中でも有力視されているのが、水素と二酸化炭素からブドウ糖を合成し水とメタンを放出するという化学合成を行う種類です(ちなみに光合成は二酸化炭素と水からブドウ糖を合成し酸素を放出する過程のことです)。だから、メタンと生命が結びつくんです。この種類は結構あちこちにいて、酸素の少ない湖や沼、水田、海、牛の反芻胃、シロアリの後腸などにも住んでいます。この種の嫌気性微生物が火星にいれば、メタンが検出される可能性があります。


そう、牛が出てきましたね。実は、牛のげっぷに含まれるメタンは体内の嫌気性微生物が、水素+二酸化炭素=ブドウ糖+水+メタンをやっているせいです。だから、確かに「げっぷ」と火星の生命の間には関係があるんです。


記事には「動物のげっぷなど生命活動でも」と書いてありますから、嘘はついてません。でも、ちょっと間をはしょり過ぎですね。どうしても、火星の赤い大地で白黒の生き物が「もー」とか言っているのを想像してしまいます。


ただ、この間も書いたように「メタン」=「生命」ではありません。今回の場合、むしろ火山性のメタンガスの可能性が高いでしょう。活火山じゃなくても、地中にたまっていたガスが放出されただけかもしれませんし、隕石の衝突によるものかもしれません。それでも、大気中にメタンがあるということは「あそこで何かがおきた、あるいは今もおきている」ことを示唆するんです。それは充分にスリリングなことだと思います。


§ [books] 長沼 毅 『生命の星エウロパ』NHKブックス (amazon)

嫌気性生物や極限環境生物に関して、最近とても良い本が出ました。


この本は、表題とは裏腹にむしろ嫌気性微生物をはじめとする「極限環境生物」のお話です。地球の極限環境生物を紹介しながら、木星の衛星エウロパに存在するといわれる海の中で生命が誕生している可能性について語った本です。著者の長沼氏は深海生物学の専門家。読み進むうちに、どんどん「生命観」がぐらぐらし始めるとても良い本です。おすすめです。