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2007-01-23

§ **[clip] 人工ダイヤ原料を加熱し発電 「体温充電」携帯も可能に(asahi.com)

チタン酸ストロンチウムにニオブを混ぜた薄膜で、高効率の熱電変換素子ができたよ、というお話。~

ref. 実用化に大きく前進する熱電変換材料の開発に成功(名古屋大学)

熱電変換素子というのは、文字通り温度差を電圧に変える素子のことで、2種類の金属や半導体を繋いで両端に温度差を作ると電流が流れる、という「ゼーベック効果」を利用したもの。決して珍しいものではなく、「熱電対」として温度センサーや火災報知機なんかに日常的に利用されている。もちろん発電に使おうという研究もあちこちで進んでいて、耐熱性と発電効率で技術を競い合っているという感じ。

で、普通はこの素子には重金属を使うんだけど、重金属は毒性があったり、埋蔵量が少なくて値段が高かったり、耐熱性がなかったりする。そこで毒性がなくて、安くて、耐熱性が高い酸化物を使って熱電発電素子を作る研究が進んでいたんだけど、こっちはいまいち発電効率が悪い。今回は酸化物を使って効率のいい発電素子ができたというところが画期的、ということみたい。2000度に耐え、酸化物を使った従来品の5倍、重金属を使ったものの2倍の性能が出ているそうな。ただし、今は基礎研究の段階で実用化はこれから。

でも、さすがに「体温発電で携帯に充電」はちょっと大げさじゃないかな?体温と外気の温度差はせいぜい20度くらいだから、携帯電話を充電できるようになるにはまだまだ越えなくちゃいけないハードルが沢山ありそう。

ちなみに、コンピューターのCPUを冷やすのに使ったりする「ベルチェ素子」は、ゼーベック効果とは逆の、電圧を熱に変える「ベルチェ効果」を利用したもの。この「電子冷却」はすでに実用化ががんがん進んでいて、身近なところではl小型冷蔵庫なんかにベルチェ素子を使ったものがでてきている(駆動部がないから振動が起きず、ワインなんかの冷蔵庫にぴったり)。

で、ゼーベック効果とベルチェ効果は可逆の関係なので、高効率の熱電素子は高効率の冷却素子になる(もちろん逆に冷却素子は熱電素子にもなる。ベルチェ素子も片方を暖めて片方を冷やすとちゃんと発電する)。この技術で価格が下がって素子の性能が上がれば、さらに応用範囲が広がるかもしれない。~

ref.熱電おもしろ話(小松エレクトロニクス(株))

ちなみに (ちなみに、ばっかりやな)、記事中にもある「腕時計」で有名なのは、シチズンの「エコドライブ サーモ」とセイコーの「サーミック」。外気と腕の体温の差で発電する。ただ、今はセイコーは振動で充電する「キネティック」に、シチズンは光で発電する「エコドライブ」にシフトしたみたい。まあ、エコドライブサーモのFAQを見ていると、さもありなんという感じ。バンドがゆるいとダメ、気温が高いとダメ、そりゃ使いにくいよ。要するに人肌+外気は熱源としては不安定すぎる、ということやね。

ちなみに、記事中で紹介されていた「人工衛星」への利用というのは、惑星探査機ボイジャーやカッシーニ、ニューホライズンズなんかに積まれている「原子力電池(アイソトープ電池)」のこと。放射性同位元素の崩壊熱を熱源として電力を発生する熱電変換器。太陽から遠いと太陽電池が使えないのでこういう電池が必要になる。~

ref.Voyager - Spacecraft - Instruments - Radioisotope Thermoelectric Generators(NASA)

ちなみに、「体温発電」は別の分野でかなりまじめに研究されている。それは、体内埋め込み型熱電変換器の開発。駆動部がなくて電池の交換の必要がないから、人工臓器の電源に最適というわけ。まあ、腕時計と同じで、安定した熱勾配をどこから得るんだ?という問題はあるけどね。~

ref.Power implant aims to run on body heat(NewScientist)~

ref.NASA - Human-Implantable Thermoelectric Devices(NASA)

ちなみに、惑星探査機と同じように、アイソトープを熱源にして熱電交換を行う心臓ペースメーカーは既に実用化されていて、欧米では臨床例も沢山ある。ただ、最近は普通の電池が高性能になって長寿命化したので、使われていないみたい。

ちなみに、原子力電池というと「近づくと被爆する」と思っている人がいるけれど、原子力電池に使われるプルトニウム238はα線しか出さないので薄い紙一枚でも遮蔽できる。電池をこじ開けて中身を食べたりしない限り大丈夫。使われなくなったのは作る時や廃棄するときに厳重な管理が必要だかららしい。

ちなみに...もうおしまい。