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2005-05-23

§ [book] 松浦晋也『スペースシャトルの落日~失われた24年間の真実~』エクスナレッジ(amazon)

日本を代表するロケットジャーナリスト松浦晋也氏によるスペースシャトル本。スペースシャトルがどこで間違い、その結果としてアメリカのみならず世界の宇宙開発がどんな影響を受けてきたのかについて、きっちりとまとめられている。有人宇宙飛行の今がどうなっているのかを知る上では最良の本だと思う。

ただ、不満がないでもない。

ひとつは、何でもかんでもスペースシャトルのせいにしすぎてないか?ということ。

「そろそろ目を覚まして次に行こうよ」というせっかくの主張があまり目立たず、スペースシャトルさえ無ければ宇宙開発はもっとうまくいっていたのに...という愚痴しか聞こえてこないのはとても残念。たとえば、打上げ機に事故があったり仕様変更があれば、打上げ予定が延びるのは当然。アリアンだってH2だって同じことがおきている。それをスペースシャトルが欠陥だったばかりにみんなが迷惑した!とあげつらうのは、ちょっと言い過ぎじゃないかな。

それでも、僕はシャトルはそれほど悪い仕事をしたとは思わない。まったく視点を変えてみれば、スペースシャトルは2回しか失敗していないともいえる。試作段階から今まで100回以上のミッションをこなして軌道投入に失敗したのが1回、大気圏突入に失敗したのが1回。事故で人命が失われているという事実に目をつぶるなら(つぶるべきじゃないのは重々承知だけど)、これは打上げ機としてはかなりいい成績じゃないか?

無理のある設計、無理のある運用、コストに対する締め付け、安全性に関する軽視...そういう条件の下で24年間飛ばし続けられたにもかかわらず、ミッション成功率98%というそれなりの成績を収めているプロジェクトを「虚妄」の一言で切り捨てるのはどうかと思う。

もうひとつは、本書で紹介されている「一人乗り宇宙船」*1について。

ぼくは「ふじ」が提唱されたとき、心からすばらしいプロジェクトだと思った。発展性があり、実現の可能性があり、そしてなによりわくわくするプロジェクトだったからだ。でも、今回の本で紹介されている「一人乗り宇宙船(ピッコロ/スニーカー)」には賛同しかねる。いや、わくわくするよ。あれはぼくが子供の頃夢に描いていたロケットそのものだ。ぼくだって一機欲しい。いやほんとに欲しい。でも、だからこそあの「一人乗り宇宙船」には違和感を覚える。だって、あれはロケットマニアの願望そのものだもの。思考実験としてはとても面白いけれど、日本の宇宙開発が目指すべき未来像として提示するにはちょっと無理があると思う。なにしろ、「ピッコロ/スニーカー」は、宇宙に行って何をするのかという問いに全く答えてくれない。

松浦氏は繰り返し「いまできることから始めよう」と言っているけれど、なぜ彼が本書で商業宇宙飛行に関して一言も触れなかったのか、僕には不思議でならない。「誰もが宇宙にいける」という未来を想定するなら、間違いなくSpaceShipOneとVirgin Galactic *2はその未来に一番近いところにいる。「弾道飛行なんて宇宙に行ったことにならないよ」「パック旅行なんてつまらない」と笑い飛ばすのは簡単だ。でも、彼らは誰もが宇宙に行くために、何から始めなきゃいけないかをよく知っている。彼らはいきなり軌道周回飛行を目指すのではなく、弾道飛行を実用化することから始めた。彼らはまず、自分たちの宇宙船にお客さんを乗せて飛ばすために、安全基準をどうすべきかFAAと検討することから始めた。これこそ「いまできることから」の好例じゃないだろうか。

宇宙に行きたいと思っている人が、みんなロケットの運転手になりたいと思っているわけじゃない。「いつか誰もが宇宙にいけるように」という目標を立てるのなら、最初に目指すべきは「庭から打ち上げられる僕のロケット」じゃないと思う。

*1 一人の乗員を24時間軌道上にとどまらせることを目的とした一人乗りカプセルと小型で安価な打ち上げロケットによる打ち上げシステム

*2 知らないうちに日本語サイトができてる!