Garbage Collection


2005-09-26 帰ってきました

§ さかなをたくさんみてきたよ

てんきがわるくてほしはみられなかったけど、ともだちにほしをみるためのきかいをたっぷりみせてもらいました。たのしかった!

§ NASAの次世代機開発プラン

How We'll Get Back to the Moon

留守にしている間に、NASAの次世代機の開発計画が正式に発表されましたね。内容そのものは、この間少しづつリークされていたものと大きな相違はありませんが、これがNASAからの正式な発表であること、将来計画とともに大雑把な仕様が提示されたという点では大きな進展です。

新しいシステムは、まったく新しい設計の有人宇宙船と、シャトルの技術を流用した2種類の打上げ機からなっています。


NASA/John Frassanito and Associates.

今回の次世代機プロジェクトの中心となる有人宇宙船は、Crew Exploration Vehicle (CEV)と呼ばれており、カプセル型の再使用機です。耐熱システムを交換することで10回程度ながら機体を再利用します(メインの耐熱システムは、おそらくアポロと同じ溶融型でしょう)。大きさはアポロの約3倍。当面は、月に4人の飛行士を送ることを目標として開発され、最終的には6人のクルーを月へ送り込む能力を持たせるとのこと。新しく設計される月着陸船とともに、燃料には液体メタンが使用されます。これは、将来火星探査を行う際に帰りの燃料を火星の大気から精製することを想定しているためとのこと。この帰りの燃料を現地で調達するというプランは火星協会のロバート・ズブリンが著書の『マーズ・ダイレクト』(amazon)で主張していたものと同じですね。

打上げ機はクルーを打ち上げる有人打上げ機と貨物専用の重量物打上げ機の2種類。


NASA

貨物ロケットはシャトルのメインエンジンを5機束ね(シャトルは3機)、シャトルの固体燃料ロケットをブースターとして使用します。打ち上げ能力は、地球低軌道に約125トンの物資を運び上げられる能力を持たせるとのこと(ちなみにシャトルの打ち上げ能力は約30トン)。全長は100mを超え、打ち上げ能力サイズともにアポロのサターン5に匹敵する超巨大機になりそうです。

有人機は第1段にシャトルの固体燃料ロケットブースターを、第2段にシャトルのメインエンジンを利用します。実現すれば初の固体燃料ロケットによる有人打上げ機ということになりますね。ただ、シャトルと違い、打上げ時に問題が生じた場合は、カプセルが脱出システムとして動作するためずっと安全だとのこと。もちろん、クルーの乗るカプセルはロケットの先端にありますから、断熱材の剥離で機体が損傷する心配もほとんどありません。

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さて、ここまでがプランの概略です。せっかくなので、少しごたくを述べておきましょうか。

注目すべきは、なんといっても「カプセル型有人機の採用」でしょう、と言いたいところですが、むしろこれは「貨物と人を別々に打ち上げるというプランの採用」と捉えるべきかもしれません。人を打ち上げるためのミニマムのシステムを考えれば、羽根のついた巨大な飛行機を打ち上げるより、小さなカプセルを打ち上げるほうが理にかなっています。実はこの方法、アポロのときにも検討されましたが、結局、ミッションが複雑になりすぎるという理由で破棄されました。こちらの方法の方がずっとたくさんのものを持っていけるし、ミッションの柔軟性もずっと高くなります。アポロの頃と違ってずいぶん技術も進んだし、ISSでノウハウも積んだし、なにより今回は月へ行くことが目的じゃなく、そこで何かをするために行くわけですから、より実用的で汎用性の高い方法を選んだということでしょう。

ただし、一回のミッションに必要な打上げ回数が多ければ多いほど、ミッション全体の成功率やスケジュールがタイトになります。かたや繊細な有人機、かたや125tという超巨大機、この二つを同時に打ち上げるのは、コストも手間もかなりかかるはずです。両者が連携することを考えると、必要なリソースは単に2つを合わせたより多くなるでしょう。上の記事には月ミッションを年に2回行うという目標を上げられていますが、実現するためにはかなり信頼性の高い機体と、綿密かつ柔軟な運用が必要になるはずです。

注意すべきなのはこのプランはあくまでコンセプトに過ぎないということです。たとえば、ここに上げられている打上げ機の想像図は、かなり意図的にシャトルの固体燃料ロケットと外部燃料タンクに形が似せて描いてあります。この画とNASAのリリース文をからは、まるでシャトルのパーツを流用するから簡単に開発ができるかのような印象を受けますが、たぶんそう簡単にはいきません。シャトルの固体燃料ロケットや外部燃料タンクは、その上に構造物を乗せられるようには設計されていません。そのままでは、カプセルやペイロードの重さを支えられないでしょう。完成形はもう少し違う形をしているかもしれませんね。

5年という開発期間にも少し疑問があります。現在NASAの地上施設はシャトル用に作られています。サターン5レベルのサイズのものを打ち上げるためには、現在シャトルの最終組立を行っているVLBと同じ規模の建物と、新しい機体に合わせた新しい発射台が必要です。発表によれば新システムの稼動は5年後、シャトルの退役と同時です。彼らはまったく新しく同じ規模の打上げ施設を作るつもりでしょうか?それとも、既存施設を流用して作るんでしょうか?前者の場合は莫大な予算がかかります。今の施設でさえ、アポロ計画のときの潤沢な予算で作られたことをお忘れなく。後者の場合は、シャトル用に施設を稼動させながら、新しいシステムのために施設を改造するという恐ろしく手間のかかる方法になるでしょう。シャトルをあと5年運用しながら、その間に新しい打上げ機を開発し、シャトル退役と同時に新しい機体を投入するというのは、実はかなり高いハードルじゃないでしょうか? ちなみにシャトルの時は、最後のサターンシリーズの打上げである1975年のアポロ-ソユーズプロジェクトからシャトルの初飛行までの6年間、有人宇宙飛行は行われませんでした。

これが、シャトル計画のときの大言壮語の繰り返しじゃないといいんですが...

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もう一つ注目したいのは、このプランにISSが組み込まれていないということです。CEVはISSとドッキングできるように作るけれど、必ずしも月に行くためにISSを必要としません。このことを見ても、ISSがNASAにとってお荷物になりつつあると言うことが伺えますね。NASAにとってISSが重荷なのは、それが国際共同プロジェクトだからです。ISSは自国だけの都合で、簡単に放り出したり、計画を変更するわけにはいきません。この教訓からNASA/アメリカが学んだことがあるとすれば...おそらく、国際共同でみんな仲良し、じゃないでしょうね。

少し視点を変えれば、このプランは、かつてポストアポロ計画として目標とされていた「シャトル-宇宙ステーションの組み合わせて月へ向かう」というプランが、「CEV-月基地の組み合わせで火星へ向かう」というプランに拡大されたとも見えますね。今回のプランには見事なまでに、「国際的な協力の下に」という言葉が登場しません。むしろ、このプランはアメリカが独力で月を目指すことができるように組み立てられているようにも見えます。

明らかに、今、世界の有人宇宙開発はISSとシャトルを中心に回っています。シャトルの退役は2011年、ISSの退役は2016年。そう、5年後にはシャトルはありません、そして10年後にはISSはありません。この5年、10年の間に有人宇宙開発の見取り図は激変するでしょう。結局、世界はまたアメリカの大風呂敷に振り回されることになるんでしょうか?あるいは...