Garbage Collection


2006-08-04

§ **[clip] 口径3.8m、アジア最大の望遠鏡 京大、国立天文台など建設へ(京都新聞)

おぉ!これはすばらしい。3.8mは国内最大、扇型の分割鏡で望遠鏡を作るのは世界でも初めての試みですね。ファーストライトは2011年の予定。楽しみ。

望遠鏡が作られるのは、国立天文台の岡山観測所。実はこれまで太平洋の西側にはこのクラスの望遠鏡がありませんでした。日本は決して天体観測に適した場所とはいえませんが、世界中の望遠鏡が連携しながら観測を行うといった場合に、この場所に大型望遠鏡があることはとても大きなメリットなんだそうな。

さてこの望遠鏡には、新しい技術がいくつも導入されます。注目は鏡の作り方でしょうか。大きな特徴は2つ。

一つ目は、『分割鏡』。すばるを超えるようなサイズの望遠鏡は、一枚の鏡で構成するのは難しく、複数の鏡を組み合わせるセグメント鏡という手法が使われます。マウナケアのKeckIIがこのやり方ですね。加工のしやすさなどの点から、現在は6角形の鏡を組み合わせるのが主流ですが、この新望遠鏡では扇形の鏡を組み合わせて作られます。なんで扇形かというと...何でだっけ?6角形に比べて鏡の合わせ目で像のゆがみが発生しにくい、だったかな?(コメント欄参照)。セグメント鏡の望遠鏡は国内初、扇型セグメント鏡の望遠鏡は世界初です。

もう一つは、『研削』で鏡が作られること。従来の望遠鏡の鏡は研磨剤を使ってゆっくりゆっくり素材を「磨く」ことで放物面を作っていましたが、この望遠鏡では砥石で「削って」作ります。メリットの一つは早いこと。磨いて作ると1枚あたり数年かかるところを、数週間で作ることができるそうな。もう一つは、より自由な形状の鏡を作ることができるということ。研磨剤を塗布してひたすら擦るという研磨では基本的に単純な凹面しか作れませんが、材料を削り取るという方法ならかなり自由な形を作ることができます。扇型の分割鏡というのはこの研削技術の賜物ですね。これまでは、巨大望遠鏡に使えるような数十ナノメートルという精度で物を削れる技術はありませんでしたが、どうやらその精度が出せる見通しが立ったようです。今回、このとんでもない精度の研削技術を提供するのが上の記事にも登場する『株式会社ナガセインテグレックス』という会社です。

ref.京都・岡山 3.5m 新望遠鏡計画(京都大学/長田哲也教授)~

ref.『光赤外天文学将来計画検討会検討報告書』(ELT(超大型光赤外線望遠鏡)プロジェクト検討室)

個人的にびっくりしたのは、資金10億円は「ナノオプトニクス研究所」という企業が全額負担ということ。国内では初めてのケースだそうな。すごいな。この企業は「インターネット総合研究所」の藤原洋代表取締役所長の個人資産で設立された、巨大望遠鏡を作るための会社。どうやら今回のプロジェクトでは、鏡の研削の際の測定技術と制御技術を担当するようです。ちなみに藤原氏はこの望遠鏡を計画した京都大学、理学部宇宙物理学科出身です。

蛇足:この「CGHによる鏡面の精密測定+研削による非球面鏡の制作」は名大がやっていたやつかな? だとしたら、いろいろ紆余曲折がありそう。そういえば、中国と共同でやっていた東アジア望遠鏡はどうなったんだろう?

§ **[clip] Lowell Observatory, UA Optical Sciences (OSC) to Complete Discovery Channel Telescope Primary Mirror

ディスカバリーチャンネル望遠鏡の主鏡が完成、というお話。知らない人は、なんじゃそりゃ?と思うかもしれませんが、これはディスカバリーチャンネルが資金提供をして作られる口径4.3メートルの大型望遠鏡。もちろんテレビの撮影も行われるはずですが、主目的は科学研究用です。スピードと使い勝手のよさが特徴とか。順調にプロジェクトが進んでいるようで何よりですね。~

ref.Discovery Channel Telescope~

ref.Garbage Collection

§ **[clip] Kliper Has Too Many Unknowns(SpaceDaily)

ロシアがソユーズの後継機として開発しているKliper(クリーペル)ですが、ここに来てちょっと雲行きが怪しくなってきたようです。これまで、日本を含む各国への協力の呼びかけなどを行い、モックアップを抱えて世界中で営業していたKliperでしたが、6月末に行われたファーンボロの航空ショーで、ロシア宇宙局から「クリーペルはとりあえず延期、段階的に新しい機種を投入していく。とりあえずソユーズの改良版を作るよ」というアナウンスがあった、とのこと。記事中の談話でもそれとなく触れられていますが、どうやら金銭的な問題のようです。

ソユーズは確かによくできた有人宇宙飛行システムなのかもしれません。信頼性は高く、なにより安価。ただ、基本設計は30年以上前のものですから、そのノウハウを元に、1から設計しなおせば、もっとコンパクトで使い勝手のいいものができるんじゃないかと思っていたんですが、まだ使いますか。記事中でも触れられていますが、たとえ改良型といっても、そのための資金が必要です。作ったからには、元を取らなくちゃいけません。本当に第2段階、第3段階の「新機種」が登場するんでしょうか?

本日のツッコミ(全2件) [ツッコミを入れる]
> dtomono (2006-08-05 06:39)

3.8m望遠鏡、楽しそうですよね。<br><br>扇形にするのは、六角形よりも表面の形の種類が少なくてすむのが理由だったと思います。基本的には放物面のどこに分割鏡を置かによって、それぞれ表面の形を変えないといけないのですが、中心から点対称に分割すると、同じ半径には同じ形の分割鏡を置くことができます。作ったり検査したり予備を置いておくのが楽。逆に、丸に近い方が像の質が良い(つなぎめからの散乱光のふるまいが素直)、というのが六角形にする理由だったかな(あいまい)。<br><br>開発が名大から京大に移った一番の理由は、長田さんが名大から京大に移ったからだと思います。違うかな…。

> isana (2006-08-05 13:47)

なるほど!そうか、放物面は中心からの距離によって曲率が違いますもんね。なんとなく、扇型を組み合わせる方が形状としてはスムーズにつながりそうな気がしてしまいますが(つなぎ目もコーナーの数も少ない)、違うんですねえ。光学っておもしろいなあ。